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2020.05.28

音楽プロデューサー亀田誠治が考えるGood Musicとは?~プロデューサー編【連載】

新型コロナウイルスの蔓延で休止しているエンタテインメント。やがて再開するときに、どんな音楽が求められるのか。数多くのアーティストのサウンドプロデュースに携わってきた亀田誠治が思うGood Musicとは──。最終回はベーシストである自分を大切にしながら音楽プロデュースを続けている亀田に、そもそも音楽プロデューサーとはどんな仕事なのか。そして音楽の未来について聞いた。

迷ったら、音楽そのものに訊け

「音楽プロデューサーには、こうあるべき、という決まったスタイルはないでしょうね。秋元 康さんは作詞をベースに音楽をつくっていらっしゃいます。松尾 潔さんは楽器を演奏せずに、豊富な人脈を駆使されています。僕は関わるアーティストによって多少の違いはありますが、ほとんどの場合、作品づくりから、エンジニアやミュージシャン編成、レコーディング、ミックス、一部ではアートワークや宣伝など、作品がリスナーの手に届くまでのすべての行程に携わっています。信条は、アーティストやスタッフに最良の環境を提供し、最短距離で作品が多くの人にヒットできるように努めること。そのためには、アーティストが何をやりたいか、何を感じているかを常にキャッチし、アーティストに真摯に向き合います」

もっとも大切にしている仕事は“話を聞く”ことだという。

「アーティスト本人がどんな作品をつくりたいのか、徹底的に聞くことから始まります。例えば、1時間向き合ったら55分は話を聞き、残りの5分で僕のアイデアを提案する。タイアップ曲ならば、あらかじめクライアント側のリクエストをしっかりと把握しておきます。その上で、 その場の空気を読みながら、アーティストにクライアントの希望を伝え、方向性を提案します」

その際、けっして忖度はしない。

「気を遣い過ぎないことは肝に銘じています。アーティストと僕の意見が違うとき、忖度して中庸を選択してもいい結果にはなりません。その場合は二択です。1つ目は、アーティストの希望を受け入れて、1度は全力を尽くす。2つ目は、全責任を引き受けるから1度僕のアイデアでやってみないか、と提案する。ただし、自分のやり方は絶対に押し付けません。アーティストの思いを尊重します。本人が納得した状態で制作をスタートする。僕は二択のどちらを選んでもいい結果に着地できるだけの経験を踏んでいる自負はあります。上は70代の大先輩から、下は10代の若き才能まで、あらゆるアーティストの現場に携わってきましたから」

そもそも亀田は、どのようなプロセスを踏んで、ミュージシャンからプロデューサーになったのだろう。

「自然な流れです。特にプロデューサーになりたいと意識したわけではなく、制作現場でさまざまな局面で意見を求められ、それに応えていくうちにプロデューサーになりました。僕は自分のことを“良かれ産業”と言っていますが、自分が良かれと思って提案したこと、自分が良かれと思って踏ん張ったことによって、数々のヒットが生まれて今の場所に立っています。僕のことをポジティブ思考だと思ってくれるスタッフが多いんです。けれど、僕は自分をスーパー・ネガティブだと思っています。いつだって、うまくいく最高のゴールと、うまくいかない時の最悪のゴールの両方をイメージしている。でも、最悪にならないように、負の要素を1つずつ取り除き、最高を目指していきます」

音楽プロデューサーになったのは自然な流れ――と亀田は話すが、プロデューサーにならないミュージシャンは多い。何が亀田をそこへと導いたのだろう。

「おそらく、ポップミュージック全般が好きで、10代のころからジャンルの垣根なくすべての音楽を聴いてきたことと関係しているのではないでしょうか。ABBAやカーペンターズも聴き、マーヴィン・ゲイもマイルス・デイヴィスもセックス・ピストルズも聴いていた。リスナーとしても、ミュージシャンとしても、あらゆる音楽に接してきました。いわゆる“ヒット曲アレルギー”がないんですよ。大ヒット曲――言い換えると最大公約数的に大人数に受ける音楽が大好きです。大ヒット曲もアンダーグラウンドな音楽も区別せずに聴く。映画でいえば、ハリウッドの大作も単館上映するようなB級映画も観る。そういうボーダーレス、ジャンルレスなアーカイブを常に引き出せるところが、瞬時にいい悪いを判断しなくてはならないプロデューサーに向いている理由ではないでしょうか」

ベーシストであることも、自分をプロデューサーと導いた。

「鍵盤楽器やギターを演奏する人は、自分だけで音楽をつくりあげることができますよね。でも、ベースはそうはいきません。ドラムやピアノやギターといった他の楽器の力を借りて初めてその存在を発揮します。言い換えれば多くの仲間のサポートを得ることで、自分の想像以上の作品になるチャンスが生まれる。そして、結果的に現場のネットワークも広がっていく。チーム力で作品をつくることができる。1人で音楽を完成することができないベーシストであることには、むしろアドバンテージを感じていますね」

そんな亀田がプロデューサーとしてお手本にしているのは、1970年から’80年代にマイケル・ジャクソンやライオネル・リッチーをプロデュースしたクインシー・ジョーンズだ。

「クインシーが40代、50代で、どんな音楽を手がけてきたのか。それを常に意識しています。例えば、マイケル・ジャクソンは、その成長していく過程の中でカリスマ性を発揮しどんどん大きくなっていった。彼をコントロールするのは大変なことだったそうです。そんな関係のなかで『オフ・ザ・ウォール』『スリラー』『バッド』という三部作をつくった。『ウィ・アー・ザ・ワールド』という世界を一つにする楽曲も作った。そういうプロデューサーが存在していることを励みにしています」

クインシーとは直接会い、会話も交わしている。

「マイケルのプロデュースで世界的ヒットを量産したクインシーの原点はジャズです。人種差別が厳しい状況にあった1950年代から’60年代に、ジャズによって生きるアイデンティティを見出し、心が解放され、出会いを重ねて、時代の変化に対応し、作品を生んできました」

ジャズ史に生きる名盤『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』を20代でプロデュース。その後マイルス・デイヴィスの『ライヴ・アット・モントルー』も手がけた。

「苦しい時代を経ていることもあり、ヒットへの執念はものすごい」

亀田は『クインシー・ジョーンズ自叙伝』を愛読。そこで数々の言葉と出合い、励みにしている。

「The Music Comes First」(迷ったら、音楽そのものに訊け!)

これが本の中で出合い、座右の銘になった言葉だ。

「その音楽は質の高いものか――。僕は必ず音で判断します。コンポーザーから譜面や歌詞がメールで届いても、演奏や歌を必ず聴かせてもらう。そういう基本も、クインシーに教えられました。音楽には確かにビジネスの側面もあります。商業的に成立してこそ、次の作品もつくれる。それでも大切な判断は、愛情や、音を聴いたときの衝撃や、制作への情熱に委ねています。クインシーの著書で確信できました」

新型コロナウイルスの世界的な蔓延によって、今後、音楽制作の現場も変化していくだろう。音楽の未来を亀田はどう考えているのか。

「コロナ以前と同じような形でライヴを行うことは難しくなるでしょう。それでも、ミュージシャンから生のステージを奪ってはいけないし、誰も奪うことができないと思っています。とはいえ、まだ人の命がかかっている状況で、強引に再開するわけにはいきません。少しずつ活動を取り戻していくようになるでしょう。同時に、音楽の新しい届け方にも積極的に取り組んでいかなくてはいけません。例えば、ライヴ配信の音楽の有料化です。その実現には、今のままでは難しい。画像や通信環境といったツールも、そして音楽そのものも、クオリティを上げなくてはいけません。かつてペスト大流行の終息後にルネッサンスが起こって輝かしい時代を迎えたように、 音楽や、音楽にまつわる環境もきっと進化していくはず。僕はそれを信じています」

日比谷音楽祭 ON RADIO
「日比谷音楽祭2020」は新型コロナウイルスの影響で中止になったが、本来開催日だった5月30日(土)17時40分~21時10分に、ニッポン放送で『日比谷音楽祭 ON RADIO』がオンエアされる。出演は、亀田のほか、菅田将暉、武部聡志、中村正人(DREAMS COME TRUE)、新妻聖子、一青窈、そして日比谷音楽祭を支えるクラウドファンディングを運営するREADYFOR代表の米良はるかなど。

「スタジオとリモートとで、音楽の現在、未来についてトークをくり広げ、もちろん音楽もお届けします。武部さんのピアノと僕のベースで録音した音源に、 新妻さん、一青さんらがリモートでセッションしてくださる予定です。リスナーの皆さんからメッセージもいただきながら、音楽の役割、なぜ僕たちに音楽が必要なのかを提案していく番組になります」(亀田)

Seiji Kameda
1964年生まれ。音楽プロデューサー・ベーシスト。これまでに数多くのミュージシャンのプロデュース、アレンジを手がける。2004年に椎名林檎らと東京事変を結成し、ベーシストとして参加("12年に解散、’20年に再生を発表)。"09年、自身初の主催イベント“亀の恩返し”を日本武道館にて開催。’07年の第49回、’15年の第57回日本レコード大賞にて編曲賞を受賞。近年はJ-POPの魅力を解説する音楽教養番組『亀田音楽専門学校(Eテレ)』シリーズが人気を集めた。’19年5月、自身が実行委員長を務めるフリーイベント「日比谷音楽祭」が開催され、2日間で10万人を動員。

TEXT=神舘和典

PHOTOGRAPH=大森直

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