新型コロナウイルスの蔓延で休止しているエンタテインメント。やがて再開するときに、どんな音楽が求められるのか。 数多くのアーティストのサウンドプロデュースに携わってきた亀田誠治が思うGood Musicとは――。今回は亀田が作品制作やライヴ活動に欠かせない現場を支えるスタッフについて聞いた。
トラブルの渦中でもニュートラルな状態で判断できるのがプロ
音楽はアーティストと作詞・作曲者がいればできるわけではない。作品をつくるには、現場監督役のディレクター、音響を担当するサウンドエンジニア、CDジャケットや宣伝に使う写真のアートワークを手がけるデザイナーなどのスタッフが必要。ライヴでは、アーティストやバンドのほかに、舞台監督、音響スタッフ、照明スタッフ、会場を確保しチケットを販売するイベンター、ケータリングのスタッフなどさらに多くのスタッフがかかわっている。では、亀田誠治はどんなスタッフを求めているのだろう。
「これからも、プロフェッショナルとして自分の仕事に誇りを持ったスタッフと一緒に音楽をつくっていきたいですね。具体的に言うと、それぞれの部門の技術の高さはもちろんですが、責任感、誠実さ、パッションのある人です。さらに、アーティスト・マインド、つまりクリエイティヴな心を持つ人です。そういうスタッフは、目の前にどんな課題を与えられても、たとえ、それが自分好みの路線でなくても、ベストを尽くしてくれます。彼らと一緒に仕事をするとアーティストやプロデューサーの想像するレベルを超えた作品が生まれる。アーティストは自分の現場に熱量の低い人がいると、敏感に察知します。自分の作品に心血を注いでいるからです。だからこそ、 スタッフもどんな時でも真剣勝負でなくてはなりません」
各スタッフが最高の仕事を行えるように、サウンド全般に携わるプロデューサーとして、亀田は何を心がけているのか。
「そこに流れているポジティブな空気を継続させていくことを意識しています。もし、僕が反対意見を持っていたとしても、それ違うんじゃないの? といったたぐいのネガティブな発言はひかえます。きちんと意見を聞き尊重したうえで、新たな提案や選択肢を提示して、そのうえで再検討してもらう。亀田さんはいつもスタッフがやりたいように任せてくれる――と、よく言ってもらえます。でも実情は、任せているというよりも信頼したメンバーの仕事に僕が便乗しているんですよ。スタッフ力に委ねている。おかげさまで、僕はこれまでに多くのヒット曲に恵まれてきました。でも、どの曲もスタッフ力によってヒットしたと、僕は理解しています」
プロのスタッフとは、現場でどんなジャッジをして、意見を言うのか。どんな佇まいなのか。
「追い詰められた状況やトラブルの渦中でも、ニュートラルな状態で判断できるのがプロです。慌てません。今、何が重要か? とプライオリティを意識し、全体を俯瞰してジャッジして、自分のできる最大限の仕事をしてくれます」
そんなプロフェッショナルたちが、今ピンチの局面を迎えている。新型コロナウイルスによって、エンタテインメントが中止になり、仕事が激減しているのだ。
「楽曲の制作現場は、こつこつとリモートなどを駆使して慎重に準備を進めています。その一方、コンサートスタッフの仕事はゼロです。2020年3月以降ずっと仕事はありません。この先も見えません。夏だけでなく、秋からのツアーも中止が決まったものもあります。ツアーが1本なくなるとそれだけで、現場スタッフの年収が半減したリ、それ以下になったりします。音楽とは直接関係ないアルバイトをしてしのいでいる人も多くいる状況です。外出自粛のなかで需要のあるUber Eatsでアルバイトをしているスタッフが何人もいます」
そこで、亀田は仕事を失ったスタッフのためのクラウドファンディングをスタートした。
「そもそも5月30、31日に日比谷公園で開催する予定だった日比谷音楽祭のためにクラウドファンディングを行っていました。 無料の日比谷音楽祭ではチケットからの収入がないので、様々な実費がかかります。そのためのクラウドファンディングでした。それをスタッフのための『日比谷音楽祭2020 開催中止で仕事を失った人へサポートを』へと方向転換したのです。開催できないイベントのために、この状況で支援してもらえるのか――。正直なところ、半信半疑でした。ところが、たくさんの方々の理解を得ることができました。ネクストゴール目標額の800万円に近づきつつあります」
亀田のクラウドファンディングには、SNSでも数多くの賛同を得られた。しかし、1割ほど、ネガティブな反応もあったという。
「僕のような立場の人間がクラウドファンディングでお金を集め始めると国や地方自治体が保障への動きをしなくなるのではないか、800万円集めてもスタッフ1人に2万円くらいの割り当てでは助からない、という意見もありました。確かに、スタッフ1人1人にそんなに大きなお金を渡すことはできないかもしれません。でも、誰かがいち早くアクションを起こすことによってメッセージが生まれます。エンタテインメント業界が窮地に追い込まれていて、経済的に苦しんでいる状況であることをクラウドファンディングによって発信することができるのです。僕たちの力は大きくないかもしれません。でも、僕たちがアクションを起こすことで、この動きに誘発され他の分野でもアクションが生まれてくるかもしれません。ポジティブな連鎖です。このクラウドファンディングは、動きが広がる旗印になればいいと思っています。コロナの蔓延は、誰にとっても未経験です。どう対応していけばいいのか――、ほとんどのことを手探りで行っていくしかありません。とにかくトライするしかないのです。トライ&エラーを重ねて前に進むしかない。今はとにかく、大切なスタッフの力になりたいと強く思っています」
Seiji Kameda
1964年生まれ。音楽プロデューサー・ベーシスト。これまでに数多くのミュージシャンのプロデュース、アレンジを手がける。2004年に椎名林檎らと東京事変を結成し、ベーシストとして参加("12年に解散、’20年に再生を発表)。"09年、自身初の主催イベント“亀の恩返し”を日本武道館にて開催。’07年の第49回、’15年の第57回日本レコード大賞にて編曲賞を受賞。近年はJ-POP の魅力を解説する音楽教養番組『亀田音楽専門学校(Eテレ)』シリーズが人気を集めた。’19年5月、自身が実行委員長を務めるフリーイベント「日比谷音楽祭」が開催され、2日間で10万人を動員。