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2020.05.08

渥美創太シェフ「フランス政府は外国人の僕を自国のフランス人と同様に守ってくれた」

ロックダウンが続くフランス・パリで暮らす日本人に、現地在住のカメラマン、松永 学が取材。 今回は新進気鋭のシェフとして知られ、昨年秋にオープンした新店がパリで話題の渥美創太さんに話を聞いた。

コロナ収束後のレストランはきっと何かが変わる

渥美創太さんは、レストランガイド「ル・フーディング」で最優秀ビストロ賞を受賞するなど、パリのレストラン界で知らない人はいないシェフ。前職のClown Barのシェフ時代、何度かお会いして撮影をさせていただきましたが、いつも素材と真摯に対話する寡黙な人柄が印象に残っています。

2005年にフランスに来て以来、「トロワグロ」「ステラ・マリス」「ジョエル・ロブション」などで経験を積んだのち、渥美さんは「Vivant Table」でシェフに抜擢。その後「Clown Bar」で注目を集め、昨年9月にはパリ11区の路地裏に、自身がオーナーシェフを務める「Restaurant MAISON」をオープンさせました。建築家の田根 剛さんが手がけたレストランは、すぐに大きな話題となり大人気。波に乗ろうとしていた矢先に今回の新型コロナウイルスの感染拡大が起こりました。

©Restaurant MAISON

「お店は3月15日から休業。今は週3日でボランティア、そのうち2日は医療従事者への食事提供するアソシエーションに、1日はホームレスの人たちへの食事提供をするアソシエーションに参加しています。接触機会はゼロではないですから、こういったボランティアにシェフたち全員が参加すべきとは思いません。そして、この活動にスポットが当たる必要もないと思っています。賞賛されるべきは治療にあたる医療関係者や昼夜問わず収束に向けて特効薬やワクチンを研究する人たちですから。最前線で戦う彼らから「美味しくて元気が出た」とメッセージが届いたときには、自分たちが元気をもらいました。

それに、このような活動ができるのは、フランス政府がレストランへの営業停止命令と同時に、すべての従業員の給与のほとんどを補償すると約束してくれたからです。そのおかげで閉店をまぬがれ、スタッフを守ることができました。自分はこの国では外国人ですが、その外国人を自国のフランス人と同様に守ってくれるフランス政府には、本当に感謝しています。その自分がそういった感謝をカタチにできることといったら料理しかないので、ボランティアへの参加は自分の役目の一つとして続けたいと思います。

ボランティア以外の日は、ちょうどお店がオープンして半年経ち、改善点も多く見つかっていたところなので、店の掃除をしたりチーム内でアイデアを出しあったりしています。再開へ向けて、オープンから営業できた期間で気づいた点をすべて改善できるよう時間を使いたいです。また、現在の環境に限りはありますが、料理に関しても色々考えたり試してみたりしています。オリジナルの調味料などは再開した時に使えるよう色々仕込んでいます。

家族との時間も、ここ半年はほとんど取れていなかったので、今は週2日は妻と娘と終日ずっと一緒にいます。2歳の娘とお菓子を作ったりする時間はかけがえのないものです。娘はお刺身が大好きなので、大きなヒラメを買って捌くと大喜びしてくれます。あと、今まで自分は自然の草花より、キッチンの中で食材と向き合うことで季節と接してきました。レストランが営業できない今、プティポワやホワイトアスパラなどの春の食材に触れたいので、それらを使った料理を作っています。

今は週2日は妻と娘と終日ずっと一緒にいます。

レストラン業界の再開の見込みについは、今、自分が意見を言うタイミングではありません。フランス政府が議論をしている最中だからです。政府はレストランを潰さないように、文化を維持するために、そしてもちろん、その大前提としてコロナとの戦いに最小の犠牲で勝利するために話し合ってくれています。決して身を任せるだけではありませんが、今はただ次の情報を待ちたいと思います。

自分のできることは、いい料理を提供することだけです。そのためにあらゆる状況を想定し、できることをやります。

僕は今も今までも、自分が置かれている環境が当たり前だとは思ったことはありません。人間社会のあり方に関しても、フランスの農業事情やレストランのあり方、自分を支えてくれている仲間たちや食材や環境など、すべて誰かが一生懸命に向き合って一生懸命やっているからこそ、自分は料理に向き合えていました。これからも自分が地球や世界や社会や仲間や家族のために、何ができるのか、何をやることが最善なのか、それを考えて自分なりにまっすぐ向き合うだけです。

コロナ収束後のレストランはきっと何かが変わると思います。変わってほしいところももちろんありますし、本当にたくさんのことを考えさせられます。でも、言葉ではなかなか表現できないし、そもそも、今はどうなるのか想像できません。

ただ、コロナが収まった後、レストランはこうなった、という一つのいいあり方を示せればと思います。今までもそうでしたが、さらに笑顔をたくさん生み出せる場所であり続けたいと思います。

外国にいる自分にとって日本という国は本当に誇らしい母国です。日本が世界で建国から一度も滅びていない、最も歴史のある国といわれているのは、きっと日本人が幾多の困難を乗り越えてきたからです。「たゆたえども沈まず」というのはパリの標語ですが、この言葉を聞くたびに日本を想います。

絶対に僕たちは負けません。

また笑顔で多くの方と再会できる日を楽しみに頑張ります!

TEXT=松永 学

PHOTOGRAPH=松永 学

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