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2020.04.13

【特別寄稿】ドリアン助川 『希望の力』


新型ウイルスの出現により、年があけた頃には想像だにしなかった苛烈な世界に私たちはいます。このパンデミックは人類への脅威であるとともに、今を生きる一人一人の生活に影響を与えていくでしょう。私たちの未来をも左右していく衝撃的な事態です。

ウイルス禍がいつまで続くのか。仮に終息が予見できるときが来たとしても、それからどんな世界と向かい合わなければいけないのか、これはだれにもわかりません。

国家間のパワーバランスも変わるでしょうし、不況がやってくる可能性は高いです。差別や偏見の嵐が吹き荒れる殺伐とした世の中になるかもしれません。お店を経営していたり、フリーランスの立場で仕事をしているみなさんには辛い時代の到来です。世界に出ていく夢を持つ若い人たちにとっても、不安ばかりが先に立つ日々だと思います。

しかし、私は信じています。

どんな状況にあっても、あなたや私は「希望」をなくしてはいけませんし、それがなくなることはないはずです。

なぜなら、希望は国家や組織が与えてくれるものではありません。希望とは、あなたや私の心のなかにあって、燃え続けるもの。熾き火のように小さくなることはあっても、決して絶えないもの。押し寄せてきた風景がどうであれ、私たちの命とともに生まれた、もっともたくましい、根源的な力です。

困難を越えることも、その後の新しいビジョンも、すべて私たちの心に根を持つ希望から始まります。これからさらに問われていくであろう人類の平和もまた、軍事バランスの緊張の下にもたらされるものではなく、今この星に生きる者たちそれぞれの希望を汲み取り、「共棲」の感覚を持つところから始まるのではないかと私は思っています。

ではその希望の正体はなにか。

あなた自身を肯定する自己愛と、それゆえに他者を大事に思う博愛です。

微笑みを忘れずに。

鮮やかな夢を持ち続けること。

ぎくしゃくしたら、怒りよりもユーモアを。

思いやりのある言葉を。

それだけであなたはこれからも生きていけるし、生きていて良かったと思える夜を、いつかしみじみと味わえるはずです。

ドリアン助川

Durian Sukegawa
1962年東京生まれ。作家、道化師。大学卒業後、放送作家などを経て1994年、バンド「叫ぶ詩人の会」でデビュー。1999年、バンド解散後に渡米し2002年に帰国後、詩や小説を執筆。2015年、著書『あん』が河瀬直美監督によって映画化され大ヒット。『メキシコ人はなぜハゲないし、死なないのか』『ピンザの島』『新宿の猫』『水辺のブッダ』など著書多数。昨年より 明治学院大学国際学部教授に就任。

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