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2020.03.08

ベストセラー『なんで僕に聞くんだろう。』の幡野広志に聞いてみた

血液のがん、 多発性骨髄腫を発病し、現代の医学では治療方法がないことを宣告された写真家の幡野広志さん。そのことをブログで告白したところ、幡野さんのもとには大量の人生相談が届くことに。これに答えた、ウェブメディアcakesでの連載は1000万人以上に読まれるなど大反響。そして、その中から37本の相談を収録した書籍『なんで僕に聞くんだろう。』が今ベストセラーとなっている。なぜ幡野さんの言葉は多くの人に刺さるのか?

なぜ余命数年の写真家に人生相談をするのか

「家庭のある人の子どもを産みたい」「親の期待とは違う道を歩きたい」「自殺したい」「虐待してしまう」「末期がんになった」「お金を使うことに罪悪感がある」「どうして勉強しないといけないの」「風俗嬢に恋をした」「息子が不登校になった」「毒親に育てられた」「人から妬まれる」「売春がやめられない」「兄を殺した犯人を、今でも許せない」……

写真家、幡野広志さんに届く人生相談は、病気のこと、お金のこと、恋愛、不倫、親子問題などさまざま。その連載は、ウェブメディアcakesにある数多くのコンテンツの中で最も読まれている。

今回の書籍化にあたり、先日、代官山 蔦屋書店で幡野さんとcakes編集長・大熊信さんのトークショーが開催。連載の担当編集者でもある大熊さんが選んだ言葉に対して、幡野さんが解説した。

あなたの場合、どちらの道を選んでも正解ですよ。「正解はない」じゃなくて、どっちも正解。
(40歳を前にしてプロの声優になりたいという相談)

大熊「相談をする人って、背中を押してもらいたがっている人が多いと思っているんですが、幡野さんはどっちと明確に答えてはいないんですよね。でも、大丈夫だよって教えているから、すごくやさしい回答だとなと」

幡野「よく悩み相談で、2択で答えを求めてくる人がいるんだけど、正直、どっちでもいいと思うんですよね。僕がこっちと答えたら、その人は実際にその通りにするのかなって思うんですが、どっちを選んでも後悔する可能性はある。答えは最終的には自分で考えてほしい。で、見つけてほしい。人生相談の答えになってなくて申し訳ないんですけど(笑)」

不倫相談をするかたがよく使う言葉があります。それは「大切」という言葉です。
(家庭のある人の子どもを産みたいという不倫の相談)

大熊「 『相手の大切な家族』『自分の大切な子供』……とかですよね」

幡野「大切って言葉、普段はあまり使いません。不倫の時にだけ本当によく使われるんじゃないかな。大切という言葉は、じつは邪魔と言い換えられるんじゃないかって思います。不倫をしている人は、自分をキレイに見せるウソをつく。ウソというか予防線を張っているよね。それにしても人生相談をするようになって、世の中、こんなに不倫している人が多いんだなと思ったなあ。僕に来る恋愛の悩みと言ったら40代の不倫話ばっかり。高校生の恋愛相談とかないですもん(笑)」

ぼくはジャイアンのお母さんはもっと嫌いです。
(イジメを苦に死にたがる娘の力になりたいという相談)

大熊「ジャイアンはヤバいはよく聞きます。でもジャイアンのお母さんがヤバいは、はじめて聞きました」

幡野「学校の先生から聞いたことがあるんですけどね。よくテレビドラマでは、裕福な家庭の子がイジメっ子になってますが、実際はそういうことはあまりなくて、イジメっ子になってしまう原因は兄弟間格差によるものが大きいそうなんです。ジャイアンには嫌がる店番をさせ、暴力で服従させる。それでいてジャイ子には自由に漫画家の道を許す。あの母親によってジャイアンの暴力性は生まれたと僕は思います。でも一番ヤバいのは、のび太の母親。自分の子どもがボコボコにされても平気で、テストの点数だけ見て怒る。やっぱりドラえもんのような親にならなきゃね」

あなたが自分にかけた呪いの言葉はいつか、悩む誰かにあなたがかけてしまいます。あなたが誰かの敵になってしまいます。だから絶対にやめましょう。
(子供を産む覚悟ができないという相談)

大熊「この相談って自己肯定感の問題だなと思うんです。 自分のことをダメだと言っている人って他人のことも肯定できなくなってしまいます」

幡野「悪いことを言われた被害者が、そのあと加害者になってしまう、そういうことってよくあります。でも、その繰り返しをしていると、最終的に自分自身の幸せから離れてしまいます。これってよくない。ちなみに僕は自己肯定感が低いです。子供の頃、ほめられたことはなく、20代は仕事柄、呪いの言葉をかけ続けられました。写真業界は古い業界だったりするんで、褒められることはありません。でも、僕は自分のアシスタントのことを褒めますよ。なぜなら、そのほうが成長が早いから。怒るってことに何のメリットも意味も感じません」

ひとつ気になることがあります、暴力をふるっていますか?
(子育てが辛いという相談)

大熊「ワンオペ育児ができる人と比較したら自己嫌悪におちるだけ、3日くらい前の自分自身と比較してと答えた後で、突然、こう聞くんですよね。そんなこと文章に書いていないのに」

幡野「いつも僕は、相談に答えるとき、相談した人の立場に自分を置き換えます。そうするとだんだんと総合的に見えてくる。いろいろわかってきます。僕は、HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)と指摘されることが結構あります。最近『敏感さん』っていう本も出てますが、一言われたら十くらい想像してしまうとか、相手の感情が読み解けてしまうとか、ウソを見抜けたりとかします。こういうとスーパーマンみたいだったりしますが、敏感さんは蛍光灯がダメとか、みんなに注目されているところで字を書けなくなってしまうとか問題も多い。ちなみに僕もカメラマンなのにストロボが苦手だったりします(笑)」

あなたのことがね、嫌いなの。嫌いどころか、大嫌いなの。
(娘がグレてしまったという相談)

大熊「相談者は親として心配しているんだけど、子供ではなく親である自分自身に問題があることに気がついていないんですよね」

幡野「僕は親子の問題には容赦しません。わからせたほうがいい。子供とお母さんの話になると、絶対に子供のほうにつきます。毒親問題って恋愛に似ているんですよね。子供のときってママ大好きなんだけれど、年をとるにつれて他のことが好きになっていく。母親はそれをどうしても認識できない。私からいなくならないでというドロドロした恋愛パターンと同じ。子育てにおいて反抗期って13歳から18歳くらいですが、人生にとっては5年ってたいして長くない。でもこの期間の接し方を親が誤ると、子供は親を一生嫌いになってしまう。でも、この回答は相談者には届かないんだろうな」

なぜあなたを黙らせたいかというと、あなたの話がすんごくつまらないからです。
(波乱万丈な人生について悩む相談)

大熊「小さいときにお母さんが亡くなって、友人が自殺をして、ストーカーにあったり、ブラック企業の入社したりとか、波乱万丈マウンティングの相談です」

「この相談者の話を、もし飲んでいる席で聞いたら、黙っててくれないかなと本気で思うんじゃないかな。不幸話ってつまらない。全然面白くない。他人の話は蜜の味っていうけど、不幸話って話術があるから蜜になる。それがないなら、くしゃみしか起こさない花粉でしかない」

あなたの人生を輝かせるために子供がいるのではなくて、子供には子供の人生があるんですよ。
(息子が不登校、娘が学校をやめ、親子問題に悩む相談)

大熊「cakes史上最も読まれ、ナンバー1のPV数を誇る記事です」

幡野「とにかく反響が大きかったですね。この記事を公開したとき、ちょうど香港にいたのですが、WiFiが繋がってなくて、繋がったらメッセージとかメールがすごいことになっていました。これは典型的な毒親問題。弟さんもお姉ちゃんもSOSのサインを出しているのに、なんでお母さんは気づかないんだろうという、本当にひどい話。このお母さんは、人のことは許せないけど、自分のことは許してしまうというパターン。この回答ではお母さんを随分ボコボコにしてしまったけど、ぼくは親子の問題はさっきも言ったとおり、必ず子供の方に立ちますから。嫁姑問題の間に立つ旦那と一緒。どっちにもいい顔するから解決できないのであって、どっちかの立場になればいいんです」

神様は乗り越えられない試練は与えないっていいだす人がいたら、頬をおもいっきりひっぱたいてやりましょう。きっと反対の頬は差し出してきませんから。
(通り魔に兄が殺され、許せないという相談)

大熊「このフレーズが思いつくって、幡野さんの唯一無二性ですよね。本当にその通りだと思って、僕、このフレーズ使いますねって返信したのを覚えています」

幡野「これは僕がガンになってすごく言われたこと、バカの一つ覚えのように、キリスト教徒でもない人からすごく言われた。人ってよくこれを言いがち。決してそんなわけありませんから」

人は人それぞれの、しあわせを享受するために生きているのだと、ぼくはおもいます。これは身勝手な話かもしれませんが、ぼくの息子や妻でさえ、ぼくをしあわせにしてくれる存在なのだとおもいます。
(21歳と付き合っている41歳の女性の相談)

大熊「『人が生きる理由』という記事です。展覧会でも、この言葉がすごくフィーチャーされて、SNSでも多くあがっていました」

幡野「みんなが幸せになってくれたほうが楽。不幸な人が増えちゃうと、イジメやDVや虐待、呪いの言葉とかが発生してしまう。みんなが幸せを願い、幸せの力添えをする。それがうまくまわれば、個人の幸せというより、世界が幸せになる。それってそんなに難しいことじゃない。ただ、幸せというのを、結婚や出産、大企業への就職だと思ってしまうとしたら、大きな間違いだよね。ぜひ、自分の幸せを見つけてほしい。人の目を気にしはじめてしまうと、幸せって得られないと思う」

明日だって生きるんだから、だからこそ無理をして生きなくたっていいじゃないですか。
(合わない人との接し方に悩む相談)

大熊「これ、書籍に入っていない言葉なんですが、僕が幡野さんに対する根源的なイメージの言葉です」

幡野「(「今日が人生最後の日だったら、今日やることは本当にやりたいことだろうか」という)スティーブ・ジョブズの名言あがりますよね、あれは無理。 ガン患者になったってやらないんだから、やらないです。 病気になってすごく言われたんですよ。「明日死ぬと思って精一杯生きなよ」って。バカじゃないかって思っちゃいましたよ。明日も生きていると思うから平和なんであって、明日死ぬってわかっていたら絶対にパニックになってる。でも、無理して頑張んなくていいと思えば、楽に生きられる。ちなみに悩み相談をしてくる人は自分で自分を苦しめちゃっている、修行僧みたいな人が多いなって思う」

Hiroshi Hatano
1983年、東京生まれ。2004年、日本写真芸術専門学校中退。’10年から広告写真家・高崎勉氏に師事、「海上遺跡」で「Nikon Juna21」受賞。 ’11年、独立し結婚する。’12年、エプソンフォトグランプリ入賞。’16年に長男が誕生。’17年多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)、『写真集』(ほぼ日)。

『なんで僕に聞くんだろう』
幡野広志
¥1,650 幻冬舎
なぜ、誰にも相談できない悩みを、ガンになったの写真家に打ち明けるのか? 人生相談を通して「幡野さん」から届く言葉は、今を生きるすべての人の背中を押す。クリエイターと読者をつなぐサイトcakesで、「2019年にもっとも読まれた連載」「1000万人が読んだ人気連載」が待望の書籍化! 「cakesで歴代ナンバー1のPVを獲得した記事」も収録する。

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