幾多の試練を乗り越えながら、着実にスーパースターへの階段を上り続けているメジャーリーガー・大谷翔平。彼がアメリカ全土でも絶大なる人気を誇る理由は、その実力だけが要因ではない。ビジネスパーソンが見習うべき、大谷の実践的行動学とは? 日本ハム時代から"大谷番"として現場で取材するスポーツニッポン柳原直之記者が解き明かす。
27球団が獲得競争に参戦
環境選択能力は「デキる社会人」の必須スキルだ。エンゼルス・大谷は移籍先になぜ〝エンゼルス〟を選んだのか。メジャー3年目に突入する前に今更ではあるが、少し振り返りたい。
大谷は日本ハム時代の2017年オフにポスティングシステムでメジャー移籍を目指した。米メディアによると27球団が獲得競争に参戦し、「起用プラン」などを説明するプレゼン資料を大谷側に提出。その後、エンゼルスのほかにドジャース、ジャイアンツなど西海岸のチームを中心に7球団に絞り込み、エンゼルス移籍を決断した。
エンゼルスは2014年以来、ポストシーズンから遠ざかっており、いわゆる強豪チームではない。さらにヤンキース、ドジャース、カブスのような熱狂的なファンが多い球団でもない。メディアの多くが「エンゼルスを選んだ理由」について疑問に思い、「日本から近い西海岸のチームだから」、「メディアやファンによる重圧が少ないから」といった様々な憶測記事を飛ばしていた。
メジャー1年目の'18年キャンプ初日。エンゼルスを選んだ理由を問われた大谷は「フィーリングが合ったっていうのが一番。あとはキャンプを見てもらえればわかるんじゃないかなと思います。自分がエンゼルスにどう馴染んでいくかっていうのが一番大事なので。なんで決めたかっていうよりは自分がエンゼルスにどう馴染んでいくかっていう方が大事だと思います」と答えている。
筆者は大谷の1、2年目のキャンプ全日程、レギュラーシーズンは2年連続で100試合ほどを取材。エンゼルスの家族的な雰囲気はどこか日本ハムに似ているし、もっと言えば母校・花巻東にも似ているという印象を持っている。昨季自身3度目のMVPに輝いたスター選手のトラウトは取材対応中の大谷を見つけると必ずちょっかいをかけてくるし、通算656本塁打のレジェンド、プホルスは昨季中盤に不振だった大谷を呼び止め、打撃のアドバイスを送るなど常に気にかけてくれていた。大谷を「二刀流」で起用することで先発ローテーションの
変更などチームのバランスを崩す恐れもあったが、投打のポテンシャルは明らか。表立って不満を漏らすような選手はいなかったし、大谷はクラブハウスで試合前に一緒にチームメートとテレビゲームをするなど本当に溶け込んでいた。
大谷がエンゼルスを選んだ理由として、西海岸のチームであることや、メディアやファンが寛容なことも一つかもしれない。ただ、これまで育ってきた環境に似ている家族的な雰囲気を面談のどこかではっきりと感じたのではないだろうかと推測する。
二刀流復活を目指す今季のキャンプは2月中旬からアリゾナ州テンピでスタートする。新指揮官は当時カブス監督として面談に同席したジョー・マドン氏。不思議な縁にも注目して、大谷がエンゼルスという環境でどのように3年目の進化を遂げていくのか見守っていきたい。