PERSON

2019.09.29

【エイベックス松浦勝人】「10年ぶりのダルビッシュは大人になっていた」

【画像】matsuura

ライヴやイベントを仕事にし、たくさん見すぎたせいか高揚感を味わえなくなっている

しばらく行っていなかったので、海外を回ってこようと思う。数年に一度、海外を回って、最先端のエンタテインメントを見て、インプットするようにしている。最先端のものを見るとなると、ラスベガスが中心になりがちだ。でも、今回は、何か違うなと感じている。

聞いた話では、中国に桁外れのクラブがあるらしい。ものすごく大きな体育館のような建物に、信じられないくらいの人が入っているという。高額のギャラが提示されるので、海外のDJも多く出演している。話だけ聞いていても、桁外れぶりがピンとこないので、一度自分の目で見に行かなければならないと思う。9月は、未来型花火エンターテインメント「スターアイランド」がサウジアラビアで開催されるので、視察に行く予定になっている。中国、中東、あるいはインドといった、今まであまり行ったことがないところに行ってみるべきなのかもしれない。

ラスベガスのシーザーズ・パレスには、セリーヌ・ディオンの専用劇場があった。今年6月に最終公演が行われるまで、16年間、セリーヌ・ディオンはそこで歌っていた。10回以上見ているけど、初めて見た時は衝撃を受けた。ステージの背後が、全面LEDスクリーンになっていて、一瞬で背景が変わる。当時は、そんなもの見たことがないから本当に驚いた。帰国してしばらくは、社内で「LEDをいっぱい使え!」と言っていたほど。今ではすっかり当たり前の演出になってしまっているけど、そういう刺激をもらうために海外に行っている。

エイベックスでは、今「NINJA PROJECT」を進めている。忍者をテーマにしたエンタテインメントで、日本忍者協議会との共同プロジェクト。ダンサーだけでなく、パルクールやトリッキングの第一人者とコラボしてパフォーマンスを行う。

忍者は世界的に有名な日本のIP(知的財産)のひとつ。都内にある忍者関連のレストランや体験施設は訪日外国人で大盛況だという。これをどうやって、世界に通用するエンタテインメントとして成立させればいいのか、研究を進めている。スターアイランドもそうだけど、日本の伝統文化、歴史があり、そこにルーツを持つエンタテインメントのほうが世界では受け入れられる。単なる忍者風のパフォーマンスではなく、忍者の伝統を受け継いでいる方に教えを請い、忍者文化を基礎としたコンテンツにしようとしている。

ラスベガスのショーは、どこの文化に属するのかわからない無国籍に見えるものが多い。でも、それは、僕がよく知らないだけで、きっとアメリカや西洋の文化にルーツを持っているものなんだと思う。その背景がわからなくても十分に楽しめる。ルーツを知れば、もっと深く楽しめる。そういうものが世界に通用するエンタテインメントに育っていくのだと思う。

先月はシカゴのリグレー・フィールドに行って、シカゴ・カブスのダルビッシュ有の出場試合を見てきた。ずっと前からダルビッシュと、試合を見に行く約束をしていて、ようやく実現できた。行ってよかった。メジャーリーグの試合は、すべてが違う。一球一球が真剣勝負で、観客も真剣。どのスポーツも真剣勝負なんだけど、メジャーリーグには独特の空気感がある。

ダルビッシュとは10年ぶり。観戦後に食事をしたけど、そんな気をつかうやつだっけ? 大人になってた。本来だったら球団の許可が下りないというようなことを言っていた。食事から行動まですべてを管理されている。試合で最高のパフォーマンスを出すために、選手も進んでそれに従っている。勝つために何をすればいいのか、球団側と選手が考え、些細なことでもいい加減にしない。その真剣度合いがすごい。そういう真剣さが観客にも伝わるんだと思う。リグレー・フィールドはメジャーリーグのなかでも2番目に古い歴史のある球場。そこで100年以上シカゴに本拠地を置き続けるカブスがプレイをする。観客全員が野球に入りこんで、試合を楽しんでいる。

リグレー・フィールドに着いて、暗い廊下から階段を登り、通路を抜けると、一気に視界がひらけてグラウンドが広がる。あの高揚感。子供の頃、親に連れられて野球場に行った時、同じ高揚感を感じたことを思い出した。ライヴもそうだった。学生の頃は、通路からアリーナに入った瞬間のあの高揚感を味わいたくて行っていた。それを長い間、なくしていた。僕のなかにはそういう高揚をする心がもうなくなっていった。でも、シカゴにはあった。

ライヴやイベントを仕事にしてきて、たくさん見すぎたせいか、僕はもうあの高揚感を味わうことができなくなっている。高揚する心が麻痺しているのかもしれない。ライヴには、入りこむ見方と客観的に分析する見方があって、入りこんで見るほうが絶対に楽しい。分析しながら見ると、どんなに素晴らしいエンタテインメントでも退屈に感じてくる。僕はもう、そういう見方しかできなくなっていた。

海外でライヴを見る時は、できるだけ2回見るようにしている。1回目は全体構成を見て頭に入れて、2回目は細部の仕かけを見ていく。それが僕の仕事なのだから、客観的に見てしまうし、客観的に見なければいけない。でも、本当は、僕だって、入りこんで見たい。

ライヴやイベントは、行くと決めた瞬間から始まる。ライヴに行くためにわざわざ新しい服を買いに行くし、何日も前からライヴのことばかり考えてしまう。前日は興奮して眠れなくなる。あのワクワク感がエンタテインメントの本質なんだと思う。

僕は、長い間、イベントを作る側に回っていって、その一番大切なワクワク感が麻痺してしまっていた。その麻痺した心を、グサッと刺激してくれる何かに出会いたい。シカゴにはあった。ラスベガスにはあるだろうか。中国に行けばいいのだろうか。それともドバイなのか。インドにも行ったほうがいいのだろうか。スケジュール表を見ながら、頭を悩ませている。

TEXT=牧野武文

PHOTOGRAPH=有高唯之

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