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仕事が楽しければ
人生も愉しい

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2019.09.01

見慣れた風景から未知の領域へ 〜ハリー杉山の紳士たれ 第11回

英国王エドワード1世の末裔にして、父親はニューヨーク・タイムズ誌の東京支局長として活躍した敏腕ジャーナリスト。日本で生まれ、11歳で渡英すると、英国皇太子御用達のプレップスクールから、英国最古のパブリックスクールに進学、名門ロンドン大学に進む。帰国後は、4ヵ語を操る語学力を活かし、投資銀行やコンサル会社で働いた経験を持つ。現在は、活動の場を芸能界に置き、タレントとしてラジオDJやMC、情報番組のプレゼンターなど、さまざまな分野で活躍するハリー杉山。順風満帆な人生を送ってきたように感じるが、その人生は、情熱たぎる彼の、抜きん出た努力なしでは実現しなかった。英国の超エリート社会でもまれた日々、そして日本の芸能界でもまれる日々に、感じること――。

Stepping out of the comfort zone コンフォート・ゾーンからの脱却

朝起きて、仕事へ、同じ空のもと、同じ人々と仕事をし、栄養を取り、帰宅し、夢の世界へと出発する日々。何も変化がない事は幸せの象徴かもしれない。ただ進化はあるのか? それで満足して良いのだろうか? 自分が人生というキャンバスをいつか振り返る時には虹色の喜怒哀楽で溢れていてほしい。色があればあるほど人は深みを増し、それは“味”として蓄積する。名作 “オズの魔法使い“でドロシーが白黒の世界からオズのマルチカラーの世界へ初めて足を踏み入れた時の感動は永遠だ。一度の人生、花でなくても、いろんな色が溢れたほうが後悔はない。そしてちゃんと絵筆を持ち、色を塗る為には、慣れた環境から未知の領域へ身を投じなければいけない。

今この記事を読んでくださってるあなたにして欲しいことがある。何も書かれてない白い紙を手に取って欲しい。そして色鉛筆でも、蛍光ペンでも、ボールペンでも、色がある物ならなんでもいい。目の前に広がる一枚の白い紙を自分の人生と思い、深く考えず色を与えて欲しい。自分の心の扉を開きながら、あの時、あの人、あの感情を紙へと。誇るべき瞬間は赤なのか、それともはらわたが煮え繰り返る時なのか。大切な人や仲間が去っていく虚無感を青で染めるのか、それとも海の底のような黒で潰すのか。幸せの絶頂、猛烈な不安、圧倒的勝利。ルールは全くない。ただ自分の知らない自分、自分が閉じ込めてる自分と向き合うこのプロセスには、まだこの先に待ち構える未来へのヒントが夜空を飾る星々のように目の前に現れる事がある。僕の場合はそうだった。

僕が白い紙と自分と向き合ったのは去年の暮れだった。間違いない、自分は自分の“今”を楽しんでいる!様々な分野のお仕事のチャンスがあり、刺激ある日々を送り、父と母や友の笑顔が溢れるところを見ると、心は落ち着いていた。ただ数年前の闘争心、敗北感、何かに向かって猛烈にもがいたり苦しむことは無かった。オート運転している感覚だった。黄色、オレンジ、赤や緑。キャンバスの上には、穏やかな人がいた。それは幸せかもしれないが、幼少時代から徹夜でタイプライターと格闘しながら記事を打ち込む父の背中を見てきた自分は、グレーな不安を感じていた。自分と戦いたかった。精神的に打ちひしがれても、葛藤や挫折の奥に見える新しい自分と会いたかった。

その1ヵ月後、予想外なお話を頂けた。舞台のオファーだった。ちょうど朝ドラ『まんぷく』の撮影が終わった自分にとっては不思議なタイミングだった。最初は自分が今頂けているお仕事とのバランス、負担、リスクを踏まえると、なかなか肯定的には考えられなかった。ただ運命的な事も重なった。

20世紀のアメリカを代表する鬼才、テネシー・ウィリアムズが三島由紀夫に捧げた作品、『男が死ぬ日』。父が日本に残り、彼の人生最大の影響であった、一生の友だった三島由紀夫とあのテネシーが繋がっていたと? 思わず父の顔が浮かんだ。そして僕が演じる事になった "東洋人" というストーリーテラーは三島をイメージして作られた役だと。震えた。そして東洋人は東洋と西洋の文化、歴史、生き様、死生観を語る役。本を読めば読むほど、東洋と西洋のアイデンディティを持つ自分に響くことは多々あった。いくら難解でも。やるしかなかった。

ダブルキャストの呉山賢治くんと。10年前は日々モデルオーディションでともに苦渋をなめるなど、お互いの挫折をよく知っている。ここでまた出会うのも運命。

そして先日、集中稽古に入った。無様な姿を見せてしまった。稽古中、全く言葉が出てこなかった。真っ白とはこのこと。理解不可能。全身からドロドロの汗が、心が潰されると共にゆっくりと滲み出た。逃げ出したくなった。そして演出のボビーさんと助手の田丸さんの一言で外の空気を吸いに、逃げ出した。野方の商店街で経験した絶望のパレードは一生忘れない。これぞ挫折、でもこの奥には必ず進化、喜び、感動はあると思い、稽古場に戻った。

稽古の様子。

来週、『男が死ぬ日』は開幕する。

テネシーが産んだ創作の苦悩に悩む画家。彼を11年愛し、身を捧げた愛人。
狂気に溢れる人間の情欲。そしてそれを解説する東洋人。キャスト全員スタッフ全員が苦しみ、自分と戦って皆さんの前に現れるこの戯曲を是非、見届けてほしい。

試して、失敗して。また試す。挫折する。諦めない。またやってみる。微かな光が見えてくる。そして一歩ずつ成功に近づく。この永遠のプロセスを崩さなければ色は溢れ、味が生まれる。

僕が求めるのは "バラ色の人生" ではなく、"虹色の人生" だ。

秋の足跡が聞こえてきたこの季節、2019年という1年を後悔なく最後まで。

さぁ、チャレンジだ。

コンフォート・ゾーンから未知の領域へ。

舞台「男が死ぬ日」
期間:9月5日(木)~15日(日)
劇場:すみだパークスタジオ倉(東京都墨田区横川1丁目1-10)
ハリー杉山出演回:
9月7日(土)13:00~、18:00~
9月8日(日)14:00~
9月11日(水)19:30~
9月14日(土)13:00~、18:00~
9月15日(日)13:00~

Manners Makyth Manについて
礼儀が紳士をつくる――僕が英国で5年間通学した男子全寮制のパブリックスクール、ウィンチェスター・カレッジの教訓だ。真の紳士か否かは、家柄や身なりによって決まるのではなく、礼節を身につけようとするその気概や、努力によって決まる、という意味が込められている(ちなみに、Makythは、Make を昔のスペルで表記したものだ)。人生は生まれや、育ちで決まるわけではない。濃い人生を送れるかどうかは、自分自身にかかっているのだ。

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