アート関連書を中心に扱うGINZA SIX内「銀座 蔦屋書店」は、店舗中心部に巨大なアトリウムを持つ。その空間で展覧会「安藤忠雄:挑戦」が始まった。 かねて刊行が続いているポートフォリオ集の第5弾、『ANDO BOX V』がこのたび刊行となり、そのお披露目(6月20日まで)をしようという趣旨の展示だ。
大切なのは夢を見る力
ポートフォリオと聞くと、手元で見られるサイズのものを想像してしまうが、これはまったく違う。展示されている『ANDO BOX V』の現物は、驚くなかれ長さ10メートルにも及ぶ大作ドローイングである。対面するとまずはその存在感に気圧され、続いて細部にまで渡る繊細な表現に感嘆しきりとなる。
この巨大ドローイングに描かれているものは何かといえば、『中之島プロジェクトⅡ【地層空間】』の計画案。建築の仕事を始めてまもない1970年代のこと、安藤忠雄さんは誰に、どこに頼まれたわけでもなく、自主的に情熱を傾けて大阪・中之島の再生を構想し、建築・都市計画としてまとめたのだった。
その際に描かれたオリジナルの絵図を、最先端の写真技術を有するアマナサルトがプリントにして、複製をつくったのがこのポートフォリオということになる。
「このプリントは千年持つものだと、アマナサルトは言います。長く残るものができるのならと、ポートフォリオの制作を決めました」
発表会に登壇した安藤忠雄さんご本人はそう話す。
「この図面はスタッフも含め6人がかりで、半年ほどかけて描いたもの。白い線は周囲を黒く塗ることで、浮き上がるような描き方をしてあります。ぜひ近くまで寄って、細部までじっくり見ていただきたい」
言われるがまま傍で見てみると、無数に引かれた線の一本ずつにしっかりと意思が通っているのが読み取れる。いつしか線画の世界に没入していき、川沿い特有の快い風が吹き渡るのまで感じられた。
そう、このプロジェクトが構想された舞台・中之島といえば、大阪中心部を流れる川の中州にあって、現実にも市役所、図書館、公会堂など地域文化や行政の中枢を担う施設が建ち並んでいる。安藤さんが考えたのは、この島を一大文化ゾーンとして捉え直し、あらゆる施設を地下に展開することで、文明と自然のさらなる調和を実現させるという壮大なプランなのだ。
「これは私が抱いたひとつの大きな夢。だからこそ、現実の仕事以上に力を込めて、夢らしい画を描いたのです」
そう安藤さんは言う。いまのところこのプランは夢のまま留まっているが、緻密な構想を練る段階で得たアイデアは、その後の安藤建築の中にさまざまなかたちで活かされている。
「建築の機能を地下に収めるという着想は、のちに発展して瀬戸内海の直島につくった地中美術館で実現されました。突き詰めて何かものごとを考えた経験は、自分の財産となってきっといつか活きてくるものです」
展覧会の会場には、かつて刊行したポートフォリオ集の現物もいくつか並んでいる。自身の建築を安藤さんがみずから撮影し写真に収めた『ANDO BOX Ⅲ』もあれば、代表作たる『光の教会』や中之島の中央公会堂内に「卵」を埋め込んでしまおうという計画『アーバン・エッグ』にスポットを当てた『ANDO BOX Ⅳ』も観られる。
『アーバン・エッグ』のような、古い建物内に新しい建築を内包させるアイデアは、これものちにヴェニスでつくったプンタ・デラ・ドガーナ、パリで進行中のブルス・ドゥ・コメルスなどで実現されることとなった。
夢を見る力、それこそが大切である。一枚の巨大なポートフォリオが、安藤さんのそんな力強いメッセージを体現しているかのようだ。
安藤忠雄:挑戦
会期:2019年6月8日(土)~20日(木)
会場:GINZA ATRIUM(GINZA SIX 6F 銀座 蔦屋書店内)
問い合わせ:銀座 蔦屋書店 TEL 03-3575-7755