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2019.03.31

【エイベックス松浦勝人】「日本は終わってしまうのではないか。いや、すでに終わっている」

matsuura190331

外に出ていくことを本気で考え実行しなければ、日本の企業は消えてなくなるしかない。

日本は終わってしまうのではないか。いや、すでに終わっているとすら思った。ある人から「ぜひ読んでみてください」と渡された資料を読んで、日本はここまで歪んでしまっているのかと衝撃を受けた。ヤフージャパンCSOの安宅和人氏が少し前につくった「シン・ニホン」という資料。検索するとすぐ見つかるので、ぜひ読んでほしい。

日本はあらゆることがダメダメで、一人負けをしている。この資料の内容を見ても「GDPは5年で人口8000万人のドイツに並ばれかねない状況」「日本は半ば一人負け」「このままでは米中と戦うことは非現実的」。人材育成の拠点である大学は、研究費が削られ、国際ランキングは低下しっぱなし。研究者は、プリンターのトナーも買えず、出張の旅費もない。引用される学術論文の数は、とっくに中国に抜かれ、あと数年で韓国にも抜かれる。ビジネス課題とエンジニアリングをつなぐアーキテクト的な人材もいない。このままでは、日本は邪魔なオジさんだらけの社会になる。それでいて、日本はこの15年、何のチャレンジもしてこなかった。

一方、外からはGAFAのサービスがどんどん入ってくる。便利だから多くの日本人が使う。でも、日本の企業は外に出ていかない。外からは入ってくるのに出ていかないから、日本の企業はどんどん小さくなっていく。

エンタテインメント業界は、幸いなことに「日本語」に守られている。プラットフォームは海外に取られても、そこで流通するのは日本語のコンテンツ。日本は人口が減っているとはいえ、まだ1億人以上いるので、市場はまだ引っ張れる。でも、その残された時間の間に、外に出ていくことを本気で考え実行しなければ、日本の企業は消えてなくなるしかない。

現実的な海外進出は、まずは中国。中国で聴かれている音楽は、もちろんほとんどがC -Popだけど、K -Pop、J -Popも聴かれている。シェアは少ないが人口が半端なく多いので、エイベックスが受け取れる権利使用料もとんでもない金額になる。中国でも音楽サブスクリプションの市場は伸びており、今後は月額の利用料金も上がるだろうという予測もある。当然、僕たちはそこを視野に入れて動いている。

そうやって、日本市場でのビジネスと海外市場への進出をしている間に、エンタメ×テック×グローバルの領域で新しいビジネスを興さなければならない。でも、それができる人材がいない。多国語が話せて、0から1のビジネス経験があって、経営がわかって、法務の知識もある人が必要なのに、いない。エイベックスには多国語が話せる人はいる。経営経験がある人もいる。法務知識がある人もいる。でも、それらをすべて兼ね備えた人材はいない。

それぞれの専門家が集まったチームでは、新しいビジネスはつくれない。今までになかったビジネスというのは、必ずグレーなところから始まる。それを消費者が受け入れることで法律が整備され、ホワイトなビジネスになっていく。でも、法務の専門家は新しいビジネスは必ず否定する。法律の規定がないのだから、OKを出してしまって、後で問題が起きたら自分の責任になってしまうから。どうやれば現行の法律と衝突せずに済むかという方法を考えるのが本来の仕事なのに、それをしない。

僕は以前「エイベックスから飛びでて自分でスタートアップをつくる」と言ったことがある。それはエイベックスが嫌になったからではなく、大きな企業のなかでは、ビジネスが進まないから。だから本体とは距離をとって戦略的に小さな組織にし、外から人材を集め0から1のビジネスをつくり、形になったところでエイベックス本体に戻すということをやりたかった。

優秀な人材というのはすべてが違っている。普通は「こうしたいのですが、よろしいでしょうか?」と僕のところに聞きに来る。でも、優秀な人材は「こうしたいので、こうしました」と報告してくる。「え? もうやっちゃったの?  だったら認めるしかないよな」となる。

優秀な人材は、出してくる予算額も桁が違う。アプリ開発をするのであれば、普通は取引のある開発会社に見積もりを任せてしまう。優秀な人材は「東南アジアのこれこれの国で似たアプリがあって、それを日本向けにローカライズすれば、費用も安く、開発期間も短くて済みます」と言って、桁違いに安い数字を出してくる。「え? そんなに安く済むの? だったらやってみなよ」となる。

そんな優秀な人材がいたら、思い切った裁量権を与えることも必要になってくると思う。それは他の社員から見たら、えこひいきに映ることもあるかもしれない。でも、10人の新人アーティストを売りだすのに、10人平等に力を入れていたら、全員が売れずに終わる。「これだ!」というひとりに賭け、売りだしていく。もちろん、他のアーティストは嫉妬する。悔しい思いもする。でも、それが成長のきっかけにもなる。社内でもそういうことが必要なんじゃないか。

東京のお台場海浜公園で開催している、花火と音楽とパフォーマンスを融合した未来型花火エンタテインメント「スターアイランド」を昨年の大晦日にシンガポールで開催したら、大成功だった。さらにサウジアラビアでの開催を目指して動き始めているし、その先の開催国も広げていきたいと思っている。

日本の伝統文化は後継者がいなくて先細りになっている。それが「こんなに予算を使ってやらせてくれるなんてありがたい」と言って、花火師もものすごく喜んでくれている。スターアイランドでは「日本の花火」を見せるわけではない。現地の人の嗜好に合わせて、音楽も花火も演出を変える。でも、ちょっとやそっとでは他国は真似できない。日本の花火師たちの技術は図抜けているから。こういう形で、日本の伝統文化、日本の技術が世界に広がっていくというのが、エンタメ×テック×グローバルなんだと思う。

TEXT=牧野武文 

PHOTOGRAPH=有高唯之

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