2017年10月、アスリートによる社会貢献活動の輪を広げていくことなどを目的に「HEROs SPORTSMANSHIP for THE FUTURE」(以下、HEROs)が日本財団によって創設された。GOETHEでは社会貢献活動に励むアスリートの声を伝える連載をスタート。最終回は、昨年12月に開催された「HEROs AWARD 2018」でHEROs AWARD賞を受賞した5つの活動の思いを届ける。
①赤星憲広 Ring of Red~赤星憲広の輪を広げる基金~
2001年、足に病をかかえた体の不自由な女性ファンとの出会いをきっかけに、様々な人に“プレー以外でもお返しを”と考え、車椅子の寄贈を始めた赤星さん。
「姉が看護士だったこともあって小さい頃から車椅子が足りないという現状は知っていたので、プロ野球に入って活動をやりたいとずっと思っていた。プロに入った当初は活躍していないのにやっていいのかなとか、どうやってすればいいのかもわからなかった。でも、チームが優勝した年に車椅子を必要とする女性ファンと出会ったことで、活動のきっかけをいただきました」
’03年から現役を引退した’09年まで毎年1年間、盗塁した数の車椅子の寄贈を続け、通算301台の車椅子を寄贈。’07年の甲子園球場リニューアルの際には、意見を求められ、車椅子席までのスロープやエレベーターの完備、そしてスタンドの傾斜を緩やかにすることなどを提言した。その後、ダイビングキャッチをした際に中心性脊髄損傷を患い、自身も車椅子生活を強いられ、それが引退へとつながった。
「自分が乗って初めて乗る側の人の気持ちが分かったし、ただ単に贈るだけではだめなのだなと改めて気づかされた。バリアフリー化に力を入れなきゃいけないと、怪我をしてわかりました」
現役引退後もこの活動を続けたいと考え、基金を設立。これまでの活動に加え、チャリティーマラソン大会を開催するなど、社会貢献活動の幅を広げている。
「車椅子だけでなく、この基金は災害や障がい者支援に対しても使っています。継続が凄く大事。長くやっていることが全てではないけど、アスリートが先頭に立ってやっていくことで、たくさんの人たちに輪が広がると思います」
②有森裕子 HEARTS of GOLD
HEARTS of GOLDは、第1回アンコールワット国際ハーフマラソン(AWHM)に関わった人々によって1998年10月10日に設立。「スポーツを通じて希望と勇気をわかちあう」ことを目指し、有森さんが代表を務めている。
「活動の対象となる人々が、自分の中に生きる力を生みだすことが必要だと思っている。でも、それを生み出す機会やタイミング、環境がなかったりすることが問題。スポーツを通して健やかな体と豊かな心を育みたいとの想いで活動しています」
AWHMに加え、青少年指導者育成スポーツ祭を経て、小・中学校で体育の授業が実施できるよう、教育省と共に取り組みを進めており、2019年からは、カンボジアの初めての4年生体育大学の開設に向けて、活動がはじまります。有森さんは、アスリートだからこそできることがあると強く信じてきた。
「スポーツができるということは、自分の中に生きる力、強い力があるということ。その重要性をわかっているスポーツ選手だから伝えられることがある。ただスポーツをやってきたのではなく、スポーツをやってこれたのだから。競技者である以上にひとりの人間として、多くのスポーツ選手に活動してほしい」
活動を始めてから20年が経過した。HEROsを通して、アスリートの横のつながりができることを大いに喜んでいる。
「これから必要な流れだと思います。これまではエネルギーを持った人たちが分散していた。スポーツが持つ力を信じてきた仲間が、ネットワークを組んで、お互いが補完し協力して、活動が広がっていければ素晴らしいのではないでしょうか」
③飯沼 誠司 ATHLETE SAVE JAPAN いのちの教室
競技の枠を越えたアスリートによる「いのちの教室」の実施を通じ「一次救命の知識と技術」「いのちの大切さ」を子どもたちを中心に伝えている。AEDの使用方法を取り入れた心肺蘇生の講習は、その活動の代表だ。
「年間7万人の心臓突然死者に対して、AEDを使える人が少ない。ÅED自体の普及数は進んでいるけど、学校の先生でも使えない人はいます。ライフセーバーは、競技場など陸の上でも普及することが大事だと思って活動を始めました」
スポーツ中の事故や事故防止に向けたアクション事例をアーカイブし、同じ事故を繰り返さないよう啓発。自ら小学校に出向いて、子供たちを中心に、AEDの使い方や、スポーツが持つリスクを訴え続けている。
「子供たちにもインパクトは与えることはできていると思います。マラソン、サッカーでも事故は多い。トレーナーだけでなく、事故を目撃したアスリートも、それを助けることができる力をもっと増やしていきたいと思っています」
飯沼さんの目標は、「スポーツ中の心臓突然死ゼロ」という社会である。
「まずはプロスポーツの力を借りながら、スポーツ中の事故をゼロにしたい。多くのアスリートの方の協力をいただきながら、安全普及をミッションとして継続性を持って活動を続けていきたい」
④長谷部 誠 ユニセフを通じて世界の子どもたちを支援
日本ユニセフ協会大使として、ユニセフの支援現場を訪問し、弱い立場にある世界の子どもたちの状況やユニセフの取り組みを自身のSNSやマスメディアを通じて広く日本の人々に伝えている。
「厳しい環境にいる子どもたちがいるということを見聞きしていたなかで、何か自分できないかと考えいた。サッカーの遠征の帰りの飛行機の中でユニセフのパンフレットを見て、募金することから社会貢献活動を始めました」
2015年4月より、長谷部誠公式ホームページの会費を通じてはしかのワクチンを供給する支援も続けている。
「ワクチンを買うだけが支援ではなく、しっかりと清潔な状態で届けることが重要。そして、そのワクチンを打てるドクターも現地に必要だし、そこにはやはり教育が必要だと思います」
ワクチンの支援、そして、ユニセフ本部および日本ユニセフ協会が展開するキャンペーンにも積極的に参加し、子どもの権利を守るためのメッセージを発信している。
「目標というか大きな夢は、この広い世界の中で子どもたちをはじめ、みんなの環境が良くなってほしいと思っている。自分の活動を通して、少しでも、日本の方がより前のめりになってくださることはうれしいし、できるだけ多くの人を取り込んこんできたい」
⑤浦和レッドダイヤモンズ 浦和レッズハートフルクラブ×バーンロムサ
2006年J1リーグ優勝し、翌年からACLに出場。対戦国はもとより、アジアの国々の子供たちにサッカーを通してスポーツの楽しさを届ける「ハートフルサッカー in アジア」を立ち上げた。浦和レッドダイヤモンズの淵田敬三社長は、その活動の意義をこう説明する。
「スポーツは、人間を育てる力がある。一生懸命やることの大事さ、喜びや、楽しさを世界中に伝えていきたいと考えています」
タイ、インドネシア、ミャンマー、ベトナム、ブータン等過去10年間で延べ27か国40都市以上を訪問。8000人以上の子供たちと「こころの交流」を行い、淵田社長自身も、積極的に現地に足を運んでいる。
「ミャンマーでは、裸足で土の上を走りながら、ボールを蹴っている子供たちの姿があった。本当に目が生き生きして、スポーツって楽しいなという気持ちを持ってくれていた。これがまさに、我々が目指す心を育む活動だと思いました」
浦和レッズといえば、熱狂的なスタジアムでファンが一体となって選手を応援する文化が根付いている。しかし、このクラブのスポーツマンシップは、スタジアムだけではないと自負している。
「これからも、目立ちはしませんが、こうしたハートフルクラブ活動、社会貢献活動を地道に行っていきたいと思っています。国内だけでなく、海外でもサッカーを通して、子供たちの心を育むような活動を続けます」