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2018.11.04

映画「ファンタビ」の舞台裏を直撃!【滝川クリステル/いま、一番気になる仕事】

世界中で約900億円の興行収入をたたきだした映画「ファンタビ」。最新作『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』の公開を11 月 23 日に控え、 魔法の世界へと誘う数々の小道具を生みだした、ピエール・ボハナ氏に人気の映画の秘密を聞いた。

CGの発達で仕事量が増えた

滝川 ボハナさんは造形美術監督として、『ハリー・ポッター』全作をはじめ、『タイタニック』や『ダークナイト』、ディズニーの『美女と野獣』など、錚々たる作品を手がけてこられました。最新作の『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』も公開が目前に迫っています。まずハリウッドにおける造形美術の仕事について、教えていただけますか。

ボハナ 映画の現場には、衣装や照明、大道具、小道具など、画面に映るデザインの全責任を負う美術監督(プロダクション・デザイナー)がいます。私たち造形美術、小道具担当部隊の仕事を大まかに言うと、美術監督が作品の世界観に基づいて描いたビジュアルを、矛盾なく具現化することですね。前作の『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』は観ましたか?

滝川 はい。とてもワクワクしました。私もトランクの中に入って、魔法動物たちの世界に遊びに行きたいなあって。

ボハナ あのトランクに入っていくシーンはCGではなく、実際にトランクの片側と床を切り抜いて、オンカメラで撮っているんですよ。つまり主人公ニュートを演じるエディ・レッドメインの身体が通る幅は必須条件でした。同時に、ニュートはこのトランクを手にあちこち駆け回るのだからコンパクトにしたいという意見もあって、一見シンプルだけど、サイズ感だけでもかなり計算してあるんです。

11月23日に公開になる、ハリー・ポッター魔法ワールド最新作‘’ファンタビに登場する、小道具の数々。

滝川 私たちは当たり前に観ていますが、ファンタジックなイメージをリアルな形にするって、多くの課題がありそうです。

ボハナ モチーフのひとつひとつ、きっと皆さんが思う以上に多くの人間が関わり、数々の議論を経て開発していますよ。ストーリー上、どのような意味を持つ道具なのか。キャラクターの個性や衣装に合っているか。実用性はあるか。照明があたった時の映り方、背景とのバランス。スタントシーンで使うなら安全性は? などなど、非常に多くの視点から検証し、それぞれの担当の要求に応えるようすり合わせていく。でもその工夫の跡は、映像では気づかれないように。違和感なく世界に溶けこんでいるのが一番なんです。

滝川 多くのスタッフが関わる現場では、クリエイティヴと同じくらいコミュニケーション能力も重要になりますね。

ボハナ 僕の役割は、言ってみればコラボレーターだと思っています。部隊のリーダーといっても、それぞれがプロアクティブに自分でイニシアチブをとって動いているので、先導している感覚はありません。どちらかというと、他の担当部隊とも緊密にコミュニケーションをとり、全体の動きを把握し、調整していくことが多いですね。チームのみんながそれぞれ、自分の仕事に集中できるように。

滝川 近年はCGなど技術の発達も目覚ましいです。工程はより複雑になり、関わるスタッフも増えているのでは。

ボハナ ハリー・ポッター魔法ワールドが歩んだ10年は、まさに技術革新とともにありました。観客の期待値も要求されるレベルも、比例して上がっていき、応えようと必死にやってきた感覚が強いですね。昔は「CGの発達で僕らの仕事はなくなるかもね」なんて話していましたが、できることの幅が広がり、逆に仕事は増えています。僕らのチームも、1作目はコアスタッフ15人でしたが、現在は40〜50人になりました。

滝川 便利になって、逆に仕事量が増えたんですか?

ボハナ コンピュータによる3Dモデリングで時間短縮できるようになったのは確かですが、万能なわけでもありません。例えば背景に置くおもちゃひとつでも、実際の重みやバランスを理解していないと、違和感が出てしまいます。そこは人間の感覚で調整しないといけない。

滝川 リアルなものを理解していなければ、再現もできないということですね。

ボハナ 何かおかしいぞ、という感覚に、人はとても厳しいんですよ。特に歴史ものでは顕著になります。わずかでも違和感があると説得力がなくなりますから、CGで簡単に作れるものを、敢えて職人に手彫りしてもらうこともあります。先ほどのトランクもそうですが、ハリー・ポッター魔法ワールドは総じて、最新の技術と、意外にアナログな方法が融合しています。

目立たない細部が物語の深みになる
滝川 「ファンタビ」は、ハリー・ポッター魔法ワールドの最新作であり、原作者のJ・K・ローリングさんが自ら脚本を担当しています。彼女の仕事から受けた影響はありますか?

ボハナ 彼女のストーリーテリングは非常に緻密で丁寧です。その熱意、クオリティを映像にする挑戦は、映画業界全体にも影響を与えたのではないでしょうか。シリーズ第1作目の『ハリー・ポッターと賢者の石』は、初めS・スピルバーグ監督に声がかかり、原著1巻・2巻分の内容を合わせた脚本にするという企画が出ていました。しかし彼女はそれを断固として受け入れず、「原作に忠実に描く」と宣言したクリス・コロンバス監督に託されることになったんです。

滝川 そんな経緯が。

ボハナ 彼女は映画作りは素人ではあるけれど、自分の物語がどう語られるかに関しては決して譲らなかった。でも本を読んだり映画を観たりしたあとに人の心に残るものって、そういうこだわったストーリーテリングによるのだと、改めて気づかされました。魔法使いの少年が活躍する話という筋書き自体はクラシックな形式ですけれど、ここまで多くの人の心を摑むには相応の理由がありますね。

滝川 あらすじだけでは説明できない、作品の魅力というか。

ボハナ あらゆる表現に共通することだと思うのですが、名作は多様なレイヤーによって成り立ちます。そのレイヤーは、目に見えない、描かれていないものであることも少なくありません。例えばこれも有名なエピソードですが、『ハリー・ポッター』の世界には「ダイアゴン横丁」という場所があります。

滝川 魔法使い御用達のショッピングストリートですよね。

ボハナ そこに行けば必要なものは揃うといわれる巨大な場所ですが、原作に名前が出てくるのは6店舗だけ。それでは映画のセットは造れませんから、セットデコレーターのステファニー・マクミランは、ローリングにメールしました。「他にどんな店があったらいいですか」と。すると、ダイアゴン横丁にある全店舗の詳細が一覧できる冊子が送られてきたのだそうです。

滝川 全店舗の一覧ですか?

ボハナ そう、店名とジャンル、オーナーの人物像、命名の由来まで。描かれなくても、すべては頭のなかにあるんですよ。素晴らしい物語ほどたやすく綴られているように見えますが、水面下ですさまじい努力と熟考があります。それこそが物語の深み、説得力になるのでしょう。

滝川 同じことがきっと道具制作にも言えるのでしょうね。ご自身は今後、どのようなチャレンジをお考えでしょうか。

ボハナ ありがたいことに毎年毎月、さまざまな新しいプロジェクトにチャレンジをさせてもらっていて、振り返ればすべての仕事がつながっています。もたらされたチャンスにどう反応したかの結果が今であり、どう反応するかが今後の人生をつくっていくのでしょう。先ほどお伝えしたように、今の自分の役割はコラボレーターやファシリテーターといった要素が強くなっていて、コストや時間などドライに考えていかなければならない部分もあります。けれどもそれは、観客には関係のないこと。求められているであろうまだ観たことのないような世界、エキサイティングな気持ちになれる映像を、仲間たちとともに追求していきたいですね。

いよいよ11月23日に公開される、ハリー・ポッター魔法ワールド最新作『ファンタスティック・ビーストと 黒い魔法使いの誕生』。主人公ニュート・スキャマンダーは、ホグワーツ魔法魔術学校の卒業生。今回はハリーポッターシリーズでもおなじみの先生、ダンブルドアも登場し、捕らえられていた最強の敵・黒い魔法使いから世 界を救う冒険へ出る。新しい魔法動物も必見だ。監督:デイビッド・イェーツ 脚本:J.K.ローリング 出演:エディ・レッドメイン、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、エズラ・ミラー、キャサリン・ウォーターストン、ダン・フォグラー、アリソン・スドルほか。3D、4D、IMAX®同時公開。Fantasticbeasts.jp。©2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. Harry Potter and Fantastic Beasts Publishing Rights ©J.K.R.

Pierre Bohanna
1969年イギリス生まれ。図案作製や船大工の見習いとしてキャリアをスタート、のちに映画界へ。『ハリー・ポッター』及び『ファンタスティック・ビースト』シリーズをはじめ数々のハリウッド大作を手がけた「小道具の魔術師」。

TEXT=藤崎美穂

PHOTOGRAPH=滝川一真

STYLING=吉永 希

HAIR&MAKE-UP=野田智子

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