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2018.02.23

安藤忠雄インタビュー 好奇心を持て。学び続けよ。 そうして、知的体力を武器にせよ。(前編)

建築家の安藤忠雄さんより、次代を背負って立つ日本人へ向けて、愛情溢れる叱咤激励をいただいた。これを読み、人生を切り拓く覚悟を定めたい。

安藤忠雄

便利とか快適、画一的な豊かさばかり追い求めてはいけない

日本は近頃、元気がないんじゃないか。

これはとくに若い人たちの姿を見て、実感するところです。株価や物価指数、賃上げのベースアップといった数値とは関係なく、人の気持ちが縮み込んでいるように思える。
 
これを打破するにはどうするか。やはり、ものごとを自分の頭でしっかり考えていかないといけません。何よりもまず、日本人は考える力を鍛えなければならない。

私が生きてきた日本の戦後は、横並びの社会でした。高度経済成長のころは、隣の住人がテレビを買ったら、自分も買おう。なに、クルマを買った? じゃあウチも買おう。その次はマイホームか、じゃあそれも。皆が同じくらいの給料をもらいながら、横一線になって生活してきたものです。

国のあり方としても、オイルを輸入して、それを原料やエネルギーとし、質の高い商品を生産して世界中に売っていく。一致団結してそれに邁進してきた。より豊かに、より快適に、より便利にという共通目標を実現しようとしたんです。それはそれでいいし、日本の経済発展の原動力となりました。

しかし、時代は変化しています。30年ほど前から、もう横並びから抜け出すべきという気運は高まる一方じゃないですか。

私の場合、1960年代に事務所を始めたころから、便利とか快適、画一的な豊かさばかり追い求めるのが建築ではないと言い続けてきました。

たとえば、1975年につくった「住吉の長屋」。中庭があるからトイレへ行くにも雨の日なら傘を差さなければいけないし、冷暖房機器を設置していないので風の入る夏はともかく、冬は寒い。そういったことで何かと悪名高い建築です。

住吉の長屋

初期代表作「住吉の長屋」。大阪市住吉区の三軒長屋の真ん中の1軒を切り取り、中央の三分の一を中庭とした鉄筋コンクリート造りの小住宅。日本建築学会賞を受賞。

不便だとか寒いというのは事実です。けれど、春から秋までは快適です。風や日差し、自然を身近に感じられて、「ここに住んでいてよかった」という気持ちになれます。

そういう家を一緒につくろうというクライアントが、当時からちゃんといたんです。自分はどう生きようかと、流されず真剣に考える人はいつの時代にもいるものです。

厳しくも楽しく生きたい、何かそれ以上の価値があるのなら不便さも甘受する。みずから考えてそういう生き方を選び取る姿勢は、今後ますます重要になっていきます。
というのは、私たちの人生観が大きく変わりつつありますから。端的に言って、人生がこれほど長くなったら生き方も変化せざるを得ないでしょう。

人生が長くなった時代に必要なのは知的体力だ

平均寿命はどんどん延びて、いまは誰でも90歳くらいまで生きることを想定できますね。ひと昔前までは人生60〜70代くらいまでと考えられていたし、戦前はもっと短かったのに、あっという間に人は90年あまりの人生の時間を得るようになった。

ということは、ですよ。以前はたとえば一流大学に入って一流企業に上がり、懸命に働いて定年まで勤め上げると、もう数年の余生しか残っていなかった。そのまま、ああよく働いたなと思いながら死んでいくのが一つの人生のかたちだった。

でも、今やそうはいかない。なにしろ人生90年で、定年退職したあと30年もの時間があります。自分はどう生きるか。その判断を自分でしていかなければ、どうしようもなくなってきました。

元気で長生きするためには、自分の頭でしっかり考えることが、絶対に必要となってきます。自分で考えず判断もせず、与えられるものだけ消化して、寿命が延びた分の30年を送るというのは、なかなかつらいものがあります。

自分でものをしっかり考えるには、どうしたらいいか。原動力となってくれるのは、なんといっても好奇心です。どんなことに対しても、好奇心を絶やさずにいることが生きる上での大前提です。世の中を眺め渡して、好奇心のアンテナに引っかかったものを、自分の人生で深く関わっていくものにしていけばいい。

安藤事務所

安藤忠雄建築研究所(大淀のアトリエ)は地上5階、地下2階。5層吹き抜けの開放的な空間だ。壁の書棚に並ぶ膨大な本に圧倒される。

好奇心を保つためには、最低限の知識がいります。何も知らなければ、好奇心の芽を見つけることすらできません。ですから本当は学校にいるあいだに、しっかり知識を溜め込み頭を鍛えないといけない。

大人になっても、知を得ようとする努力をやめてはいけない。吸収力が落ちてしまうのはやむを得ませんが、学ぶことをやめたらそこで人生も終わりというくらいに考えるべきです。学ぶというのはそれくらい人間にとって本質的な活動です。

学んで知識を得て、好奇心を絶やさずに、自分の頭で考える。それを何歳になっても続けていくべきですが、そのためには体力も必須です。体力があればこそ、頭がちゃんと働いてくれる。身体が弱って体調が悪いとき、何かを考え抜くことなどできません。身体が万全に動けばこそ、頭もついてくるものです。

身体的体力をつける。そうして初めて好奇心を持って学び続けることができ、自分の頭で考えることもできるようになる。

これを私は「知的体力」と呼んでいます。

人生が長くなった時代に、是が非でも獲得しておかなければならないのは、この知的体力です。

Tadao Ando

1941年生まれ。独学で建築を学び、’69年に安藤忠雄建築研究所を設立。世界的建築家として活躍する。現在、進行中のプロジェクトは50を超える。プリツカー賞、文化勲章をはじめ受賞歴多数。桃・柿育英会 東日本大震災遺児育英資金」実行委員長。イェール、コロンビア、ハーバード大学の客員教授歴任。97年より東京大学教授、03年より名誉教授。2017年、国立新美術館で開催された個展には30万人を動員し、翌年パリのポンピドゥーセンターでも開催された。

TEXT=山内宏泰

PHOTOGRAPH=鞍留清隆、安藤忠雄建築研究所

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