Passionable(常熱体質)とは、Passionとableを組み合わせた造語。仕事や遊びなど、あらゆることに対して常に情熱・熱狂を保ち続けられる=”常熱体質”である。本連載では脳科学者である中野信子さんが、日本の歴史上の人物のなかから常熱体質な人をピックアップ。「常熱体質であり続けるために必要なこととは何か?」。その秘密を脳科学の視点から解き明かす。
Key person 島津重豪
新しいものや冒険を面白がる気持ち、旺盛なチャレンジ精神はビジネスの成功にはもちろん、充実した人生を謳歌するためにも重要な資質といっていいでしょう。しかし、スリルや冒険を過剰に追い求めすぎてしまうと、時には手痛い失敗にあってしまうことも……。
リスクを冒してでも新しい物事に挑戦しようとする性質のことを「新奇探索傾向」といいます。人の脳内では快感を得た時にドーパミンが分泌されます。ドーパミンは報酬系の神経伝達物質。新奇探索傾向が高い人はその快楽が癖になっていて、常に新しい刺激を追い求め続けるのです。
そういった人物として真っ先に私の頭に浮かんだのは、江戸時代後期の大名である島津重豪(しげひで)です。1745年生まれの薩摩藩第8代藩主で、幕末期に名君といわれた島津斉彬(なりあきら)の曽祖父にあたります。鎖国の世にありながら西洋文化を積極的に吸収し、数々の開明的な政策を実施したことでも知られています。またその一方で並外れた浪費家でもあり、金に糸目をつけずにひたすら西洋の贅沢品を蒐集したそうです。
こうして薩摩藩の財政は急速に逼迫(ひっぱく)し、500万両もの借金を抱えてしまった。そこで彼は、下級武士出身の調所広郷(ずしょひろさと)を財政改革の担当者として抜擢します。調所は清との密貿易や黒砂糖専売といった手法で借金を完済、さらには250万両の蓄えができるまでに財政を再建しました。
度が過ぎた浪費癖も、調所の才能を見出し藩の命運を賭けた改革に大抜擢したことも、島津重豪の新奇探索傾向の高さから来る行動といえそうです。そうした彼の特性はひ孫である島津斉彬に受け継がれ、西郷隆盛の重用にもつながっていきます。
余談ですが、新奇探索傾向の高い人は浮気率が高いというデータがあります。異性にも常に新しさを求めてしまう。新奇探索傾向をどういった方向に発揮しコントロールしていくのか、それは個人の知性に委ねられているのです。
中野信子
脳科学者。1975年東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了フランス国立研究所にて博士研究員として勤務後、帰国。現在は、東日本国際大学特任教授。脳や心理学をテーマに、研究や執筆を精力的に行う。著書に『サイコパス』、『脳内麻薬』など。『シャーデンフロイデ』(幻冬舎新書)が好評発売中。新刊『戦国武将の精神分析』(宝島社)が話題になっている。