双眼鏡を覗いたら懐かしい世界があった
平井 大のツアーファイナルを見に行った。いやぁ、すげーよかった! 彼の音楽と出会えたのは、AWAのおかげ。ジェイソン・ムラーズが好きで、彼の曲が入っているプレイリストを聴きまくっていた。そのなかに、平井 大の曲も入っているのがあった。「これいいじゃん!」とすぐに気に入った。心地いいウクレレの音と優しい彼の歌声に魅せられてしまって、すべての曲を聴いてしまった。
ちょうど、ツアーファイナルがあるというので、生で見たいと思って行った。僕が行くコンサートは、アリーナやドームといった大きな会場が多いので、いつも双眼鏡を持っていくことにしている。東京ドームシティホールは、ステージと観客の距離が近い。双眼鏡で見ると、ギタリストの指の動きまではっきりと見える。それが面白くなってしまった。メンバーがアイコンタクトを取りながら、プレーをしている。平井 大が誰とアイコンタクトをとるのか、それを観察していると、誰がバンドマスターなのかがわかってくる。メンバーの関係性が見えてきて、息を合わせて隙のないプレーをしているのが伝わってくる。バンドが、心臓があって、脳があって、手足がある、ひとつの生き物に感じられてきた。今更だけど、バンドって面白い、生演奏ってすごいと思えた。
音をまったく空気に触れさせないフルデジタル
平井 大は、10年以上一緒にやっているメンバーもいると言う。彼は20代半ばなんだから、子供と言ってもいい頃からやってきたことになる。仲間というよりももう家族。だから、あれだけの素晴らしいバンドになっているのだと思う。
僕は、ずっとデジタル音楽を追求してきた。バンドや生音よりも打ち込みを追求し、音をまったく空気に触れさせないフルデジタルを追求してきた。楽器の音をマイクで拾ってはダメ。すべてMIDIでつなぐ。CDのサンプリング周波数44.1kHz、DVD Audioがマルチチャンネルで96kHz、それをどこまで超えたらどんな音になるのかという実験もした。
そしてデジタルのままスピーカーまで持っていき、そこで初めて空気を震わせて、観客の耳に音を届ける。そういうフルデジタルのライブをglobeでやってみて、アナログではありえないサウンドになった。人間の耳には聞こえない領域の音なんか、出す必要はないんだけど、身体で感じる音がまるで違う。
だから、平井 大が見せてくれたバンドの面白さは、余計に新鮮だった。僕が忘れていたアナログ、生演奏の面白さを再発見させてくれた。
僕の音楽体験もバンドから始まっている。中学1年生でギターを始めて、中学の文化祭でバンドをやった。当時流行っていた、かぐや姫とか風、松山千春をやって、そこから洋楽に興味が移り、ビートルズ、ウイングス、ストーンズ、ディープパープル、レッドツェッペリン。小さくて、狭っ苦しい貸しスタジオで、みんなで集まって練習をするのが楽しかった。
僕の音楽の原点は歌謡曲
それが、大学に入ってミケール・ブラウンの「ソー・メニー・メン」に打たれてしまい、ハイエナジーに夢中になる。バンドの仲間とも話が合わなくなっていった。僕はデュラン・デュランをやりたいのに「誰だそれ? やるならツェッペリンだろ」と言われてしまう。それ以来、僕はずっとダンスミュージックを追いかけてきた。
それが今、平井 大のようなオーガニックなサウンドが心地よく感じられるようになり、高校生の頃に楽しかったバンドプレイの面白さを思い出した。「歳をとったから」だとは思わない。僕が感じている音楽の魅力は、きっと子供の頃から変わっていないのだと思う。
僕の音楽の原点は歌謡曲。子供の頃に聞いていた野口五郎とか西城秀樹とかピンクレディーだと思う。それが、かぐや姫になり、ビートルズになり、ツェッペリンになり、ハイエナジー、ユーロビートになっても、僕が好きなのはメロディーがある曲。
ユーロビートは、歌謡曲と基本的な構造はほぼ同じ。コード進行が同じだし、Aメロ、Bメロ、サビという構成まで同じ。歌謡曲と同じ構造を持っているユーロビートだから、日本人にも理解できたし、日本でもブームになった。ユーロビートからメロディーを抜けばテクノになるし、ユーロビートからトランス、EDMと進化していっても、歌謡曲と似た構造を持ったメロディーがある音楽というところは変わっていない。だから、日本でも流行る。
音楽の楽しさというのは、時代やサウンドが変わっても、その一番根っこのところに、変わらないものがある。平井 大は、その不変の楽しさを、僕が思ってもみなかったアナログなバンドプレーで見せてくれた。
やっぱり好きなことをやっている人を応援したい
キャベジンはキャベジンなんだと思う。いくら世の中が変わっても、ITが進化してAIの時代になっても、胃が痛くなったらやっぱりキャベジンを僕は飲む。世の中が進化しても、人間の内臓は進化しないし、変わらないから。
先日、子会社のエイベックス・ベンチャーズで、スタートアップを集めピッチイベントを開催し、7社がプレゼンした。皆、面白いビジネスプランをプレゼンしてくれたけど、何よりよかったのは、7社とも、好きだからやっているということ。「好きだからやる」。これは、ものづくりをする人にとって昔から変わらない、不変の資質だと思う。
「世の中がこうだから、この分野に投資資金が集まりやすい」と考えて起業して成功するのもありだけど、やっぱり好きなことをやっている人を応援したい。だって、ビジネスの目的は資金調達じゃない。その資金を使って、ビジネスを拡大し、利益をあげることなんだから。
バンドは、好きだからプレーをする。アーティストは、好きだから音楽をつくる。スタートアップは、好きだからビジネスをする。世の中が変わっても、ここは変わらない。僕らが人間という生き物である限り変わらない。