師匠か、恩師か、目をかける若手か、はたまた一生のライバルか。第7回は、老舗企業を引き継いだ経営者ふたり。
南雲 27歳の時、藤井さんのお父様に初めて会って、人生や商売を教えてもらったんです。
藤井 僕はそういうことは親父から聞いたことがないんです。ましてや親父は会社を潰しかけましたから。ありがたかった教えといえば、楽しい酒を飲め、いい相手と飲め、ですね。
南雲 だいたい同じくらいの年齢、30代半ばで長い歴史のある企業の社長になりましたね。
藤井 龍角散が200年で八海山が90年。でも、そういうことを気にせず、南雲さんとは気楽に付き合えた。創立30年以上なら、ほとんど同じでしょう(笑)。
南雲 そういうことをいちいち考えている会社は、うまくいってないんじゃないですか(笑)。
藤井 大事なことは、むしろ先を見ること。それと、社長なんて嫌われまくったらいいと思うんです。会社が強くさえなれば。
南雲 これでもう完成した、と思った瞬間に終わりですからね。
藤井 僕は音楽を勉強してたけれど、理想的な組織はオーケストラだと思う。だから、あまり大きくしたくない。売上高は増えたけど、大きくはしない。そのために技術革新を入れる。
南雲 伝統っていうのは革新の連続ですからね。革新を失えば、伝統は生まれない。誰にもできないこと、自分たちにしかできないことをやらないと。
藤井 オンリーワンなのが共通だね。龍角散も喉の関連事業しかやらない。でも、そこで深掘りするから誰もやらなかった服薬補助ゼリーが出てくる。売れるかどうかわからなくても、世のため人のためによい製品を作れば、利益は後からついてくる。
南雲 金儲けのためにやっているわけじゃないんです。この商品があってよかったと言われることが大事。そうそう、甘酒を乳酸発酵させた、とっておきの新商品を開発したんです。これは全世代が飲める。
藤井 八海山の甘酒なら、究極の発酵食品になりますね。しかし、こうやって会って、仕事の話をするのは珍しい(笑)。
南雲 同業じゃないし、なんとなく酒飲んでるだけですもんね。何話したか覚えてない(笑)。
藤井 忘れちゃうんですよ。それだけ飲んでるってこと。でも、お酒を気にせず飲むために日々健康には気をつけています。
南雲 藤井さんは長くじっくり飲みますね。僕はガバガバーっと飲んで、寝ちゃう。だから、約束したことも忘れちゃう(笑)。
藤井 親父が行ってた銀座のバーを思い出す。
南雲 また行きましょう。
龍角散 代表取締役社長 藤井隆太(左)
1959年生まれ。桐朋学園大学音楽学部卒。プロ音楽家を経て、94年龍角散入社。95年より現職。社長就任時、40億円の負債を10年で完済し売上高を2倍に。
八海醸造 代表取締役社長 南雲二郎(右)
1959年生まれ。東京農業大学短期大学部醸造科卒。83年八海醸造入社。97年より現職。高品質を追求する一方、量産体制を実現。全国ブランドの地位を確立。