カジノやF1、豪華クルーザーのイメージから富裕層向けの観光立国の印象が強いモナコ。実は今、世界の最先端を行くサステナブルリゾートへと大きく変貌している。そんなモナコの魅力探るべく、編集部取材班が現地を訪れた。
アルベール2世大公が2050年までにカーボンニュートラル実現を宣言
モナコ大公アルベール2世は、1990年比で2030年までに温室効果ガス排出量を55%減少させ、2050年までにカーボンニュートラルを実現させることを「世界気候野心サミット2020」で発表した。
太陽光発電パネルや海水ヒートポンプを利用した海洋温度差発電を導入することによる温室効果ガス排出量の半減など、さまざまな取り組みを、政府、観光局、ホテルなど観光業を取り巻くパートナーらが手を組んで進めている。
そのなかでも観光立国・モナコらしい試みが、観光客も体験できるグリーン体験だ。
街路樹の廃棄された果実を活かしたオレンジリキュール
年間の晴天日が約300日以上。地中海性の温暖な気候の中で、太陽の日差しをふんだんに浴びて育つビターオレンジの木が、モナコの公道には600本以上生い茂っている。
近年まで街路樹から落ちる実のほとんどが廃棄されていた。その現実を長年危惧していたモン・シャルル社創業者フィリップ・クラッツォ氏が、果実を有効活用したリキュールを製造することを考案。そうして稼働しはじめたL'Orangerie(オランジュリー)の醸造所では、もぎたてのビターオレンジを丁寧に洗い、手作業で皮を数週間アルコールに浸した後、少量の砂糖を加えることでリキュールを作っている。
甘さと酸味が絶妙なオレンジリキュールはそのまま飲んだり、スパークリングワインを加えて、カクテル“モナコ・スピリッツ”で味わうのもお勧め。
手作業にこだわって作られた「オランジュリー・リキュール」の年間生産量は5万本のみ。ニース空港などでも販売されているので新しいモナコ土産としてチェックしておきたい。
元モデルが立ち上げた、未来に続くパーマカルチャー
日本の皇居の約2倍という限られた国土のモナコで、屋上やバルコニー、ホテルの敷地、ビルの周辺で野菜や果物を育てる都市型農業やパーマカルチャーの価値を尊重し、そのシステム作りに貢献しているTERRAE(テラエ)。元モデルのジェシカ・スピーゲルさんが立ち上げたもので、アルベール2世財団からの支援も受けている事業だ。
モナコでも最高級ランクのレジデンスTour Odéon(オデオンタワー)の敷地にも、ジェシカさんが管理するポタジェ(家庭菜園)がある。そこでは有機野菜や果物、ハーブなどの他、平飼いのニワトリや巣箱を置いて養蜂も行っている。
ジェシカさんは、テラエの活動について「モナコや周辺コミュニティに、こういったポタジェの作り方や、収穫から販売の販路なども支援して広げています。たとえばこのポタジェで収穫できたものは、オデオンタワーの住民が優先的に購入できるようになっていて、広いポタジェでは、個人やレストラン、市場や食料品店など、地元の消費のために生産物が収穫されています」と説明。
モンテカルロ・ベイ・ホテル&リゾートの中にも、ジェシカさん監修のポタジェが作られ『ル・ブルー・ベイ マルセル・ラヴァン』のシェフ、ラヴァン氏がポタジェで収穫した野菜やハーブを料理に使い、レストランで提供している。
街全体に、エコモビリティを広げていく
カーボンニュートラル実現のため、街全体で取り組んでいるのがエコモビリティの拡大だ。電気自動車のカーシェアリングサービス「Mobee(モービー)」は、ソデトレ社と共同開発したもので、モナコの住民や旅行者が、どこでも乗れて、どこでも乗り捨てが可能な仕組みとなっている。現在15台が運用されていて、WEBサイトやスマホのアプリで予約や利用状況の確認ができる。
「MonaBike(モナバイク)」は、モナコ政府とモナコ・バス社が提供する電動自転車のシェアリングサービス。2010年から計画はスタートし、現在サイクルポートは35ヵ所、自転車の数も300台と年々増加中。住民はサブスク登録で、旅行者は16歳以上なら臨時利用が可能だ。
また住民や多くの観光客が利用する公共バスはすでにバイオディーゼル車。こういった取り組みすべてに、モナコのサステナビリティへの本気度がうかがえる。