元アルペンスキーヤーの皆川賢太郎さんの指揮のもと、再生を目指す安比高原スキー場。国内だけでなく、海外からも人が訪れるスキーリゾートを目指して、今シーズンさらなる進化を遂げた――。
銀世界の夜のガラパーティ
パウダースノーが舞い散る夜に行われた華やかな宴は、日本のスキーリゾートの未来を象徴しているかのように思えた。
2023年末、ANAインターコンチネンタル安比高原リゾートで開催されたのは、一般財団法人 冬季産業再生機構が主催する「雪の社交場 SAVE THE SNOW 2023 CHARITY GALA」。
華やかなタキシードとドレスに身を包んだ参加者のなかには、上村愛子さん、小野塚彩那さん、吉岡大輔さん、堀島行真さんなどオリンピアンの姿も見られた。
「日本には世界に誇れるパウダースノーがあります。この豊かな雪資源を守り、国内外の人にその魅力を伝えていくことは、ビジネスとしても大きな可能性を秘めている。安比をとおして、そのことを広く知ってほしいと思っています」
そう語るのは、元アルペンスキー選手で現在はスノーリゾートのブランディングなどを手掛ける冬季産業再生機構代表の皆川賢太郎さん。2021年から安比高原スキー場の再生、リブランディングに尽力してきた。
今シーズンから雪上車(キャット)を使ったツアーや、オープン前のゲレンデを滑ることができる1日33,000円のプレミアム・リフトチケット「ブラックパス」のサービスを開始。最新のハイエンドなウェアやギアがレンタルできる「エグゼクティブラウンジ」もオープンした。
常識を覆した、新しいスキーレンタル
「エグゼクティブラウンジ」
アメアスポーツジャパンの協力のもと、最新のハイエンドなウェアやギアがレンタルできる「エグゼクティブラウンジ」が2023-2024年シーズンにオープン。ラグジュアリーな雰囲気はこれまでのスキーレンタルの常識を覆すもの。
世界に誇れるスノーリゾートに
「ブラックパス」や「エグゼクティブラウンジ」だけでなく、施設の改修や飲食店、サービスの強化、アフタースキーの充実などひとつずつ課題を解決していて、ようやく理想の20%くらいの状態にたどり着いたと皆川さんは話す。
「日本のスキーリゾートは、ガラパゴス的に発展してきてしまった。大きなホテルをつくって、温泉と宴会場があれば稼げる時代が長かったので、外からの目線がまったく入っていない。
世界の有名スキーリゾートと比べるとあまりにもギャップが大きいんです。そこを埋めていくのが僕のミッション。いずれはサンモリッツ(スイス)やシャモニー(フランス)といった、世界中から人が集まるようなスキーリゾートに育ってほしいと願っています」
反応は上々だ。ガラパーティに参加し、実際に安比を体験したメンバーは、安比の新たなチャレンジを歓迎する。
「日本にはスポーツとしてスキーやスノーボードを楽しめるスキー場は多いと思いますが、総合的に楽しめる本格的なリゾートは少ないと感じていました。
竹中工務店 参与/竹中土木 取締役社長 竹中祥悟さん
今回ブラックパスを体験しましたが、ファーストトラックでは高品質の圧雪バーンを、キャットツアーではアスピリンスノー(サラサラかつフワフワの羽毛のように軽い雪)を、それぞれ満喫することができました。
雪や圧雪の高いクオリティは、そもそも安比高原が従来から持っている大きな魅力。まさに安比にこそマッチしたサービスなのではないかと感じました」
「安比高原スキー場は、経営的な観点でいえばリフト、スクール、ホテル、レンタル、アクティビティ、レストランなどがほぼ単一の事業者によって整備・開発されているのが大きな強みですよね。
東北アレンジャーズ代表/刀 エグゼクティブ・ディレクター 佐藤大介さん
旧来型のスキー場は、リフト+ゲレンデ食堂+ホテル+レンタル+スクール+アクティビティのように、それぞれが独立して最適化を図っていた。
そういった“足し算的”な整備・運営ではなく、スノーマウンテンリゾートとして消費者の体験価値を“掛け算的に”総合コーディネートとして、設備投資やサービス・運営に反映していくことで、より世界から選ばれるリゾートとなりうると思っています」
世界屈指のパウダースノーを
思う存分堪能できる「BLACK PASS」
リフトでは行けない西森地域へ雪上車で行って滑るキャットツアーや、オープン前のゲレンデを滑ることができるファーストトラックなどこれまでにない特典がついたプレミアム・リフトチケット。場内の飲食施設では優先的にサービスを受けることができる。
キーワードは“ウェルネス”
安比がサンモリッツやシャモニーのようなスキーリゾートになるために、これからどのような開発が行われるのだろうか?
「どこかの真似をするのではなく、安比ならではの“色”を出していかなければと思っています。そのキーワードとして考えているのは“ウェルネス”。これは雪のないグリーンシーズンの充実にもつながるのですが、安比=ヘルシー、健康の街というイメージをつくっていければと思っています。
すでにインターナショナルスクールや病院施設も誘致されています。スキーリゾートに滞在しながら人間ドックを受けられたり、自然豊かな安比ならではの教育環境を整えたり、やれることはまだまだたくさんあると思っています。
あと大切なのは、新しい施設をどんどんつくるという開発をしないこと。
都会にあるようなラグジュアリーな施設を安比に持ってきても意味がない。ここでいちばんラグジュアリーなのは、パウダースノーも含めた自然です。
自然を守りながら、安比らしい街づくりをしていけば、いずれヨーロッパにも負けないスキーリゾートになってくれると思っています」
ガラパーティの翌朝、ゲレンデはまっさらなパウダースノーに覆われていた。その雪はやはり華やかで楽しいパーティにも負けない魅力を放っていた。
スキー場内の施設も次々と改革中!
安比高原スキー場
APPI Snow Mountain Resort
岩手県北東部に広がる安比高原は、パウダースノーで知られる日本を代表するスキー場のひとつ。世界に誇る新しいスキーリゾートの魅力を発信している。「WORLD SKI AWARDS 2023」において、「Japanʼs Best Ski Resort 2023」最優秀賞を受賞。