京都には知られざる歴史を有する寺や庭も多い。今回ゲーテでは、自らを「石おたく」と称する、庭園デザイナーの烏賀陽百合さんとともに、普段はなかなか拝観できない名庭を巡った。奥深い京都の魅力を堪能するために、知っておきたい基礎知識とは?【特集 京都の秘められしスポット】
庭園デザイナー烏賀陽百合「庭を知ることは、日本を知ること」
金閣寺や清水寺といった世界文化遺産クラスの寺院や庭は、一度は訪れたい名所ではある。けれど、京都は何度もという上級者には、人知れない名所や名庭を訪ね、京都のより深い魅力に触れてほしいもの。
例えば通常は公開せず、春秋の短い期間のみ一般公開する寺院や庭。訪れて驚かされるのは、何百年という時間を経ているとは思えない瑞々(みずみず)しい美しさだ。
歴史を経て継がれてきた建物や庭を、一定期間のみ公開して、よりよい姿で次の時代に継ぎたいという想いや使命感が、そこには溢れている。
カナダで庭園デザインを学び帰国後、改めて日本庭園に魅せられた烏賀陽(うがや)百合さんは、日本庭園は歴史や文化の宝庫と言う。
「海外の庭はある意味お花の庭。華やかで見る人の心を浮き立たせるためにつくられていると言っても過言ではありません。ところが、日本の庭には必ずといっていいほど意味があるんです。どんな時代に誰がつくったのか、そこにどんな思想や狙いがあるのかなどを読み解くと、日本庭園は学びの場にもなります」
秀吉が千利休に命じてつくった庭には瓢簞(ひょうたん)型の池があるが、その形にこめられた思惑は? 禅宗の庭の多くは白砂に石が立つが、蓬萊(ほうらい)山や船に見立てた石にどんな意味や教えがあるのか? 見る側が知識や想像力を持って眺めることで、それは単なる庭ではなく権力の象徴にもなるし、尊い教えにもなる。
「庭を知ることは、日本人の美意識や価値観、日本がたどった歴史を知ることです。点で知っていたことが線になってつながったり、私のように、にわかに石に興味が湧いたり(笑)」
一方で庭には人の心を無にしてリセットしてくれる癒やしもある。同じ庭を観ても人それぞれに感じ方が違うのもまた魅力。「大人になるほど、庭は面白い」と烏賀陽さんは言う。
Yuri Ugaya
庭園デザイナー、庭園コーディネーター。同志社大学卒業後、カナダ・ナイアガラ園芸学校で園芸・デザインを学び、イギリス王立キューガーデンでのインターン経験も。著書に『美しい苔の庭』などがある。