2009年から’15年の約6年半、のべ500日以上をかけて、47都道府県、2000近くの場所を訪れた中田英寿。世界に誇る日本の伝統・文化・農業・ものづくりに触れ、さまざまなものを学んだ中田が、再び旅に出た。
自然エネルギーの暮らしを自然豊かな山の中で体感
峻険(しゅんけん)な山が連なる美馬市。つづら折りになった急坂を登った、見晴らしのいい場所にEarthship MIMAはあった。周囲にあるのは森林と畑ばかりの“ポツンと一軒家”。しかもそのデザインはとても個性的だ。そしてこの建物の最大の特徴は公共のインフラに頼らないということ。
「Earthshipは、1970年代からアメリカの建築家マイケル・レイノルズさんが世界中に建てている独自工法のオフグリッドハウスです。現在世界中に1500棟以上建設されていて、日本ではこのEarthship MIMAが初めてとなります」
そう語ってくれたのは、このEarthship MIMAのオーナーである倉科智子さん。神奈川県で生まれ育った倉科さんは、東日本大震災を機にそれまでのライフスタイルに疑問を持ち、2015年に地域おこし協力隊として美馬市に移住。2016年に地元の新聞社が主催した地域密着型のビジネスプランを募集するコンテストに応募。そこで提案したのが「Earthship」を建設し、ゲストハウスとして運営するプランだったそう。
「マイケルレイノルズさんとEarthshipのインストラクター、世界中からたくさんのワークショップ参加者が集まって、4週間かけて造りました。すごく大変でしたが、インストラクターに教えてもらいながらの作業はとても楽しい経験になりました」
室内を案内してもらうと、外観とはちがってとても落ち着いた雰囲気。室内では植物が生い茂り、サンルームを兼ねたガラス張りのリビングダイニングには、陽光が降り注ぐ。
「電気は太陽光発電ですか?」(中田英寿)
「そうです。太陽光パネルで発電したものを自動車用のバッテリーに蓄電しています」(倉科さん)
「エアコンはないみたいですけど、暑くないですね」(中田)
「半地下の構造になっているので、1年を通して21℃くらいに保たれているんです。壁材に廃タイヤに土を詰めたものを使っているんですが、これが蓄熱・放熱効果が高いそうです。レイノルズさんが長年世界各地でEarthshipを造りながら最適な工法を見つけたんだと思います」(倉科さん)
建物の建材に使われているのは、タイヤ以外に空きビン、空き缶など。水は雨水をろ過して使い、風呂や洗面で使用した水は建物内の植物の根元を通り、これらの植物を育てることに使われる。トイレはもちろん水洗。冷蔵庫や電灯など最低限の電気は使えるので、不便を感じることはなさそうだ。
「私はここで暮らしているんですが、ほとんど不便はないですね。唯一あるとしたらヘアドライヤーくらいですかね。意外と電力をつかうんですよ(笑)」
今年の春からはゲストハウスとして営業。エコロジー=不便、我慢といった固定概念を覆し、自然との共生について考えさせてくれるEarthship MIMAは、徳島の隠れた名宿と呼ぶことができそうだ。
「に・ほ・ん・も・の」とは
中田英寿が全国を旅して出会った、日本の本物とその作り手を紹介し、多くの人に知ってもらうきっかけをつくるメディア。食・宿・伝統など日本の誇れる文化を、日本語と英語で世界中に発信している。2018年には書籍化され、この本も英語・繁体語に翻訳。さらに簡体語・タイ語版も出版される予定だ。
https://nihonmono.jp/