TRAVEL

2020.10.24

【中田英寿/に・ほ・ん・も・の外伝】料亭も認める特選ブランド「すだちファームおおなか」<徳島④>

2009年から’15年の約6年半、のべ500日以上をかけて、47都道府県、2000近くの場所を訪れた中田英寿。世界に誇る日本の伝統・文化・農業・ものづくりに触れ、さまざまなものを学んだ中田が、再び旅に出た。

にほんもの外伝

徳島の食文化を支えてきた絶品すだち

徳島で食事をとると、なにかとすだちがついてくる。刺し身や焼き魚からうどん、そうめん、豆腐。そしてこれがすこぶる美味い。独特の香りと酸味はどんな食べ物にも合い、素材の美味しさを引き出してくれる。徳島では、日本酒や焼酎、アイスクリームなどにすだちをかけることもあるというから、“隠れた県民食”といっても過言ではないだろう。

「国内で流通しているすだちの98%が徳島産です。徳島では江戸時代からすだちが作られていたそうですが、ここまで増えたのは最近。佐那河内村や神山町が主な産地ですが、もともとこのあたりはみかん農家が多かったんです。それが昭和50年代の寒波でみかんの木が枯れてしまい、寒さに強い品種を作ろうとなり、すだちを育てる農家が増えていったんです」

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そう語るのは、佐那河内村「すだちファームおおなか」の大仲香織さん。訪ねたのは、8月の収穫期。炎天下のなか、早朝3時から収穫作業をしているという。彼女が育てているのが、すだちの高級品種で徳島県の特選ブランドにも選ばれている「さなみどり」だ。

「うちでは約700本のすだちを栽培していますが、そのうち『3X1号』という2004年に登録された品種が『さなみどり』です。果汁が豊富で味も香りも濃厚。種が少ないので、輪切りをきれいに飾るすだちそばなどによく使われています。さなみどりというのは、佐那河内村の名産品になればと思い、私が名付けました」

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見た目は、他のすだちと変わらない「さなみどり」だが、絞ってみるとその違いは歴然。半分にカットされたさなみどりを軽く絞ると、驚くほどの量の果汁があふれる。完熟する前の緑の果実を収穫するすだちで、これほどまでに果汁が豊富な品種は他にないという。他の品種のように種がポロポロと飛び出ることもないので、いちいち取り除く手間も省けそうだ。そしてなにより驚いたのは、その味わい。指につけてなめただけでも他のすだちとはまるで別物。香りが高く、酸味はほどほど。まったく雑味がなく、そのままジュースにしても飲めそうなくらいに美味しい。

「優秀な品種で価格も他より高く売れるんですが、とにかく栽培が難しい。うちでも5年かけて育てました。まだすだち全体の1%くらいですね。料亭などで使われていますし、贈答用としても人気です。ヨーロッパや東南アジアなどにも輸出しています」

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旅が終わってから「さなみどり」を取り寄せたのはいうまでもない。高価といっても、箱買いすれば東京のスーパーで買うすだちとそれほど値段は変わらない。冷奴やサラダなど、ありとあらゆるものにジャバジャバとかけてその味を楽しんだ。はっきりいえるのは、このすだちを味わうと、他のすだちが物足りなくなるということ。すだちという果実の底力を知ったような気がした。

「に・ほ・ん・も・の」とは
中田英寿が全国を旅して出会った、日本の本物とその作り手を紹介し、多くの人に知ってもらうきっかけをつくるメディア。食・宿・伝統など日本の誇れる文化を、日本語と英語で世界中に発信している。2018年には書籍化され、この本も英語・繁体語に翻訳。さらに簡体語・タイ語版も出版される予定だ。
https://nihonmono.jp/

COMPOSITION=川上康介

PHOTOGRAPH=淺田 創

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