2009年から’15年の約6年半、のべ500日以上をかけて、47都道府県、2000近くの場所を訪れた中田英寿。世界に誇る日本の伝統・文化・農業・ものづくりに触れ、さまざまなものを学んだ中田が、再び旅に出た。 今回の旅は2019年9月に訪れた高知。
健康食品としても注目の乳酸菌が豊富な碁石茶
四国のど真ん中、高知県長岡郡大豊町。自然豊かな山間のこの町で400年以上にわたって作られ続けているのが、完全発酵茶「碁石茶」だ。
「最盛期は100トン以上生産されていたんですが、昭和の終わりには1軒だけになってしまいました。でもこの伝統の茶を守りたいということで組合ができ、現在は4軒の農家と1つの法人で碁石茶を作っています」(大豊町碁石茶協同組合の吉村優二さん)
乳酸菌が豊富な碁石茶は、健康食品として近年注目の存在。茶と発酵に詳しい中田英寿が碁石茶に目を着けたのも自然の成り行きといえるだろう。ひとくち飲んでみると、クセのある酸味が口いっぱいに広がる。プーアール茶に近いようにも感じるが、味わいはまろやか。飲んでいるうちに酸味に慣れ、おいしく感じるようになってくる。
「発酵茶というと、中国のプーアール茶や烏龍茶が有名ですが、碁石茶のルーツも中国にあるんですか?」(中田英寿)
「そのとおりです。碁石茶は約400年前に中国から伝わったといわれています。二段階の発酵過程を経ることで、独特の味わいが生まれます」(吉村さん)
発酵茶の一種である紅茶が酸化発酵であるのに対し、碁石茶は微生物をつかって発酵させる。最初は、蒸した茶葉をムシロに広げて、空気を通しカビをつけ、二段階目で木樽にいれて発酵させる。木樽に重ね入れられた茶葉は、まさに“茶葉の漬物”。これを小さく断裁して天日干しすることで碁石茶が完成する。
「碁石茶を作るのは、6月から8月まで。晴れた日を選んで天日干しをするんですが、名前の由来は、乾燥したときの真っ黒な見た目から。天日干しされているこの茶を遠くから見ると、碁石が並んでいるように見えるからだと言われています」
小さな町で手間ひまかけて作られる碁石茶は、いまや希少品。多くの農業、伝統産業と同じく、碁石茶の生産も高齢化が進み、継承が難しくなっているのだという。だが、その味や効能を知れば、碁石茶のファンも増えるはずだ。高知を訪ねたなら、ぜひ飲んでみてほしい。日本の茶文化の新しい一面を知ることができるだろう。
「に・ほ・ん・も・の」とは
2009年に沖縄をスタートし、2016年に北海道でゴールするまで6年半、延べ500日以上、走行距離は20万km近くに及んだ日本文化再発見プロジェクト。"にほん"の"ほんもの"を多くの人に知ってもらうきっかけをつくり、新たな価値を見出すことにより、文化の継承・発展を促すことを目的とする。中田英寿が出会った日本の文化・伝統・農業・ものづくりはウェブサイトに記録。現在は英語化され、世界にも発信されている。2018年には書籍化。この本も英語、中国語、タイ語などに翻訳される予定だ。
https://nihonmono.jp/
中田英寿
1977年生まれ。日本、ヨーロッパでサッカー選手として活躍。W杯は3大会続出場。2006年に現役引退後は、国内外の旅を続ける。2016年、日本文化のPRを手がける「JAPAN CRAFT SAKE COMPANY」を設立。