2009年から’15年の約6年半、のべ500日以上をかけて、47都道府県、2000近くの場所を訪れた中田英寿。世界に誇る日本の伝統・文化・農業・ものづくりに触れ、さまざまなものを学んだ中田が、再び旅に出た。 今回の旅は2019年9月に訪れた高知。
高知の自然と伝統の技術がつくり出す美しい和紙
9月とはいえ、高知の暑さは格別だった。気温もさることながらとにかく湿度が高い。太平洋から届いた湿気は、四国山地にぶつかり、高知に雨となって降り注ぐ。その湿度と暑さは、高知を旅する者にとってなかなかの難敵だ。
だが、その豊かな水分がもたらしてくれるものもある。四国山地から流れる清流がそのひとつ。透明度の高い四万十川や仁淀川が織りなす景色は高知ならでは。そして、この清流の恩恵を受け、1000年以上にわたってこの地でつくられてきたのが、土佐和紙だ。
「高知では和紙の原料となる楮が豊富に採れるんです。冷たくて清らかな水と繊維の太い楮が丈夫な土佐和紙を作り上げます」
そう語るのは、土佐和紙のなかでも「カゲロウの羽」と呼ばれるほどの薄さで知られるのが「土佐典具帖紙」を作っている、いの町の浜田洋直さん。洋直さんと弟の治さんがつくる土佐典具帖紙は厚さわずか0.03ミリ。昔ながらの道具をつかい、1枚1枚丁寧に漉いていく。
「仁淀川の澄んだ水がなければこの紙はつくれません。もうひとつ欠かせないのがたくさんの日光。天日干しで乾かすことによってしなやかな和紙ができあがるんです」(治さん)
これまで全国でさまざまな和紙を見てきた中田英寿もその薄さと美しさには驚きを隠せない。
「和紙ってここまで薄くつくれるんですね。しかも軽くて丈夫だから、インテリアやファッションの素材としても面白いんじゃないでしょうか」(中田)
「世界最薄の和紙として明治、大正時代にはタイプライター用紙として海外で売れたようです。現在は薄くて丈夫な特徴をいかして文化財の修復などに使われています。ヨーロッパの礼拝堂のフレスコ画の修復に使われることもあるんです。実は、それ以外にも和紙の可能性を広げたいと思い、指輪など立体のアクセサリーをつくったりしています」(洋直さん)
高知の自然と伝統の技術がつくり出す美しい和紙。まさに自然と人間の共存。どちらかが失われたら、二度とつくることはできない。こういう伝統工芸を守るのは、現在に生きる私たちの使命なのかもしれない。
「に・ほ・ん・も・の」とは
2009年に沖縄をスタートし、2016年に北海道でゴールするまで6年半、延べ500日以上、走行距離は20万km近くに及んだ日本文化再発見プロジェクト。"にほん"の"ほんもの"を多くの人に知ってもらうきっかけをつくり、新たな価値を見出すことにより、文化の継承・発展を促すことを目的とする。中田英寿が出会った日本の文化・伝統・農業・ものづくりはウェブサイトに記録。現在は英語化され、世界にも発信されている。2018年には書籍化。この本も英語、中国語、タイ語などに翻訳される予定だ。
https://nihonmono.jp/
中田英寿
1977年生まれ。日本、ヨーロッパでサッカー選手として活躍。W杯は3大会続出場。2006年に現役引退後は、国内外の旅を続ける。2016年、日本文化のPRを手がける「JAPAN CRAFT SAKE COMPANY」を設立。