2009年から’15年の約6年半、のべ500日以上をかけて、47都道府県、2000近くの場所を訪れた中田英寿。世界に誇る日本の伝統・文化・農業・ものづくりに触れ、さまざまなものを学んだ中田が、再び旅に出た。
自然と経済と人間の新しい関係を模索する未来の農業
約30haという面積は、北海道などにある本格的な牧場や農場と比べたら、決して大きくはない。しかし木更津市にあるサステナブルファーム&パーク「KURKKUFIELDS/クルックフィールズ」は、そんな面積をはるかに超えた可能性を感じさせてくれる施設だった。
この施設を手掛けたのは、環境問題などにも積極的に取り組む音楽プロデューサーの小林武史さん。「農業」「食」「アート」の3つのコンセプトを軸に、自然と人間の新しい関係を模索する施設だ。
「東京から1時間ほどで訪ねることができる木更津という土地でやっていることが重要だと思っています。都心で暮らしている方々に農業や自然について考えるきっかけになるような施設になればと思っています」(KURKKUFIELDSスタッフ・新井洸真さん)
居心地のいいダイニングがあり、パンや加工肉、スイーツをあつかうショップがあり、敷地内に草間彌生など国内外の有名アーティストの作品が展示してある。それだけでも十分に魅力的な施設だ。だがここにはさらに農地があり、ビオトープがあり、鶏舎があり、牛舎があり、さらには太陽光発電システムも整っている。
「小林はこの施設をつくるときから、ここに完成はないと言っていました。未来につながる農業、自然と経済の新しい関係をつくるために有機的に成長していく施設にしたいのです」(新井さん)
なだらかな丘をゆったり散歩していると、牛舎にたどり着いた。ここで飼われているのは水牛。長年、南イタリアでチーズ作りの修行をしたチーズ職人の竹島英俊さんが水牛の買い付け、飼育から手掛け、本場顔負けのモッツァレラチーズをつくっている。角を生やした水牛は、旅で見てきた肉牛や乳牛よりひとまわり大きい。畜産業独特のにおいもなく、この牛舎が清潔に保たれていることが伝わってくる。
水牛たちが見守るなか、この日の朝つくられたばかりのモッツァレラをいただく。濃厚だが爽やかな味わいとモチモチとフレッシュな食感が格別だ。やはりイタリアで長年生活した中田英寿が思わずうなった。
「うん、おいしい! こんなにおいしいモッツァレラを日本で食べられる日がくるとは思いませんでした」
施設内の「KURKKU FIELDS DINING」では、このモッツァレラはもちろんKURKKU FIELDS内で採れた新鮮な野菜や卵を味わうことができる。
「いま新たな宿泊施設を構想していて、将来的には音楽を楽しめる施設などもできる予定です」(新井さん)
施設内では若い人たちが生き生きと働き、農業の後継者問題などどこ吹く風といった雰囲気があふれていた。おいしく、たのしく、気持ちよく、サステナブルについて考える。KURKKU FIELDSは確かに理想的な未来を提示してくれているような気がした。
「に・ほ・ん・も・の」とは
2009年に沖縄をスタートし、2016年に北海道でゴールするまで6年半、延べ500日以上、走行距離は20万km近くに及んだ日本文化再発見プロジェクト。"にほん”の”ほんもの"を多くの人に知ってもらうきっかけをつくり、新たな価値を見出すことにより、文化の継承・発展を促すことを目的とする。中田英寿が出会った日本の文化・伝統・農業・ものづくりはウェブサイトに記録。現在は英語化され、世界にも発信されている。2018年には書籍化。この本も英語、中国語、タイ語などに翻訳される予定だ。
https://nihonmono.jp/
中田英寿
1977年生まれ。日本、ヨーロッパでサッカー選手として活躍。W杯は3大会続出場。2006年に現役引退後は、国内外の旅を続ける。2016年、日本文化のPRを手がける「JAPAN CRAFT SAKE COMPANY」を設立。