2009年から’15年の約6年半、のべ500日以上をかけて、47都道府県、2000近くの場所を訪れた中田英寿。世界に誇る日本の伝統・文化・農業・ものづくりに触れ、さまざまなものを学んだ中田が、再び旅に出た。
全国津々浦々! 選りすぐりの米の祭典
11月末、中田英寿が千葉を訪ねたのには、理由があった。木更津市で行われた世界一の米を決める「米・食味分析鑑定コンクール 国際大会」に審査員として参加することになったからだ。米好きの中田はこれまで全国の有名な米農家を訪ね、たくさんのおいしい米を食べてきた。旅館や和食店で米が出されると、必ず自分で“利き米”をして、どこのどんな品種かを考える。その正解率は、6割ほどだろうか。全国でコシヒカリばかりが栽培されていた時期もあったが、最近は、各地方の個性ある名産米も増えてきたため、なかなか当てるのは難しい。もっとも中田いわく「コシヒカリでも地域や農家によって味が異なる」のだという。
「知らない品種を食べるたびにその特長をおぼえるようにしています。米は毎日食べるものだから、知れば知るほど楽しくなるし、おいしさを理解できるようになるんです」(中田)
各地の農家を訪ねるたびに、米への愛を語ってきたところ、舞い込んできたのがこの「米・食味分析鑑定コンクール」に審査員のひとりとして参加してほしいというオファーだった。審査するのは全国から集ったおいしい米ばかり。もちろん断る理由はなかった。
審査はホールの舞台上で行われる。米のプロフェッショナルから市民審査員まで30人の審査員が並んでいるが、そのなかに中田がいることには、観客もほとんど気がついていない様子だ。審査は淡々と行なわれる。全国から5000以上集まった米の中から1次審査を経た42の米が同じ条件で炊かれて、小さなパックで審査員の前に次々と置かれる。1時間の間に42種類を食べて、そこから5種類を選び出すのが審査員の仕事だ。ほぼ休む暇なく、どんどん米が運ばれ、審査員はその米を目と鼻と口で審査する。
「最初はそこまで分かるかなと思いましたが、形、ツヤ、香り、食感、さらに甘みやうまみなど、それぞれに特長があり、こんなに違いがあるんだとあらためて感じました。僕が重視したのはバランスです。日本酒なども同じなんですが、バランスのいい食材や料理というのは、食べていて身体に負担を感じない。すっと喉を通っていく感覚があるものは、バランスがよくておいしいなと思います」(中田)
5つを選ぶのはそれほど迷わなかったという。
「選び抜かれた米ばかりでどれもおいしかったんですが、やはりひとつ、ふたつは飛び抜けたものがありました。噛んでいるうちに自然に溶けていって、旨みと甘みが口のなかに広がる。まだまだ僕が知らないお米がたくさんあっておもしろかったです。日本の農業の技術は本当に素晴らしく、どんどん新しい品種も開発されるし、より個性的なお米も増えてくると思います。お米だけに限らず、また旅の中でさまざまな農業の現場をみていきたいと思いました」
審査の結果、国際総合部門では18の金賞が選ばれた。そのうち13がコシヒカリ系で圧倒的な強さを見せたが、なかには「ゆうだい21」や「ひめの凛」といったまだ聞き慣れない品種も入っていた。前者は栃木、後者は愛媛で生まれたまだ新しい品種。こんなふうにおいしい米が増えていくのはうれしいし、それらが分かるようになれば確かに楽しいだろう。ふだん何気なく食べている米との向き合い方を中田に教えられたような気がした。
「に・ほ・ん・も・の」とは
2009年に沖縄をスタートし、2016年に北海道でゴールするまで6年半、延べ500日以上、走行距離は20万km近くに及んだ日本文化再発見プロジェクト。"にほん”の”ほんもの"を多くの人に知ってもらうきっかけをつくり、新たな価値を見出すことにより、文化の継承・発展を促すことを目的とする。中田英寿が出会った日本の文化・伝統・農業・ものづくりはウェブサイトに記録。現在は英語化され、世界にも発信されている。2018年には書籍化。この本も英語、中国語、タイ語などに翻訳される予定だ。
https://nihonmono.jp/