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2019.09.24

【中田英寿/に・ほ・ん・も・の外伝】瀬戸内海のヴァージンオイスターを食す<広島①>

2009年から’15年の約6年半、のべ500日以上をかけて、47都道府県、2000近くの場所を訪れた中田英寿。世界に誇る日本の伝統・文化・農業・ものづくりに触れ、さまざまなものを学んだ中田が、再び旅に出た。

小さな身に旨みぎっしり!

牡蠣は好き嫌いがはっきり分かれる食材だ。好きな人も多いが、苦手という人も少なくない。広島といえば、全国の6割以上を占める牡蠣の名産地。そんななかでも生食用にこだわるのが、江田島市のかなわ水産だ。
ふね
「牡蠣は1時間に30リットルの海水を濾過する、自然のフィルターのような生き物。海水に有機物などが多いと、どんどん大きくなりますが、味にも影響があります。うちの会社は創業140年以上になりますが、広島湾のなかでもよりきれいな海水を求めて、昭和48年にこの地にやってきました。現在は、大黒神島という無人島の周辺に養殖用のイカダを配置しています。このあたりは海水がきれいでその分牡蠣の成長は遅いのですが、生でも安心して食べられる品質を確保できるのです」

そう語るのは、かなわ水産の四代目三保達郎社長。その顔には、自社の牡蠣に対する絶対的な自信が浮かんでいる。論より証拠とばかりに、小さな船にのって大黒神島を目指す。穏やかな瀬戸内海、天気は晴天。海をわたる風が心地よく、最高の気分だ。10分ほどでイカダに到着。ここで味わったのが、かなわ水産の自慢の一品、「ヴァージンオイスター」だ。

「通常の牡蠣は1年から1年半かけて養殖するところ、ヴァージンオイスターは3〜4ヶ月。産卵前の状態でサイズは小さいながらも、味は抜群です。数はかなり少ないので、価格は普通の牡蠣の10倍くらいになってしまいます」

イカダから牡蠣を引き上げ、そのひとつをナイフで開ける。中に入っていたのは、アサリのむき身くらいの大きさの牡蠣。差し出された中田がそれをゆっくりと口に運んだ。

まさか食べるとは思っていなかった。中田は牡蠣が苦手。それでも食べてみたのは、よほどこのヴァージンオイスターに興味をそそられたのか……。しばらく味わったあと、中田が語った感想は、

「牡蠣を食べたのが何十年かぶりだから、これがおいしいのかどうかわからない(笑)」

彼に代わってその味を説明しよう。海から上がったばかりの新鮮なヴァージンオイスターは、まさに旨みのかたまりだった。小さな身を口のなかに入れた瞬間、まるで牡蠣のエキスを一気飲みしたような感覚になる。たとえば、ペニンシュラホテルの有名なマンゴープリンは、生食のマンゴーよりも新鮮でおいしく感じる。それと同じだと言えば、分かってもらえるだろうか。臭みやクセ、雑味がまったくない、旨みだけが凝縮しているのがヴァージンオイスターなのだ。

その後、陸に戻ると牡蠣づくしが待っていた。カキフライ、牡蠣めし、燻製のオイル漬け、牡蠣グラタン……。中田もソースもかけない、揚げたてカキフライを食べている。これを食べると、カキフライにソースをかけていたのは、臭みをごまかすためだったのかと理解できる。かなわ水産の牡蠣は、臭みがないから、調味料なしでもおいしく食べられるのだ。

「牡蠣は鍋のイメージがあるからか、冬の食材と思われていますが、本当は年中おいしく食べられます。これからもっとPRして、夏でも食べてもらえるよう牡蠣市場そのものを変えていきたいですね」

かなわ水産の牡蠣を食べれば、牡蠣のイメージががらりと変わる。牡蠣が苦手だという人にこそ、食べてほしいと思った。

「に・ほ・ん・も・の」とは
2009年に沖縄をスタートし、2016年に北海道でゴールするまで6年半、延べ500日以上、走行距離は20万km近くに及んだ日本文化再発見プロジェクト。"にほん"の"ほんもの"を多くの人に知ってもらうきっかけをつくり、新たな価値を見出すことにより、文化の継承・発展を促すことを目的とする。中田英寿が出会った日本の文化・伝統・農業・ものづくりはウェブサイトに記録。現在は英語化され、世界にも発信されている。2018年には書籍化。この本も英語、中国語、タイ語などに翻訳される予定だ。
https://nihonmono.jp/

COMPOSITION=川上康介

PHOTOGRAPH=淺田 創

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