滝藤賢一の映画独り語り座 vol.01

今月の一本は『フォックスキャッチャー』。

アカデミー賞男優賞超有力!その壮絶な”演技”とは!?

今月から、僕が観て心に残った映画を語らせてもらいます。さて第1回は『フォックスキャッチャー』。役者として、僕もこんな作品に出合いたい、と嫉妬するくらいの名作でした。無駄をそぎ落として演じれば、伝えたい神髄だけが残るという滅多にない脚本なんです。その象徴が冒頭。主人公は喋らないし、BGMもない。殺風景な部屋でお湯を沸かし、インスタント麺を手でクシャッと潰す。このシーンだけで主人公が不遇なことが一瞬でわかって引きこまれた。演技って“足していく”ことより“引いていく”ことのほうが難しいと僕の尊敬する俳優さんが仰っていたのですが、この脚本は役者に、極限まで“引く”ことを求めているなと。

1984年のロサンジェルス・オリンピックで金メダルに輝いたレスリング選手、マーク・シュルツの身に起きた事件の映画化だそうです。僕が感じたテーマは「分岐点」と「コンプレックス」とでも言いましょうか。マークには同じく金メダリストの兄、デイヴがいて、兄を越えられないジレンマがある。そこに大財閥の御曹司、ジョン・デュポンからスポンサー契約の話が来る。弟はその話に乗るけれど、兄は断るんです。妻と子供の環境を変えたくないと。僕も子供が4人いるから、家族を一番に思う気持ちが理解できますし、そのことで弟のコンプレックスを刺激してしまい悲劇へとつながるところも響きました。

一方のデュポンも偉大なる母にコンプレックスを持つ男。この役は『40歳の童貞男』のスティーヴ・カレルが演じていますが、今回はコメディーの要素を完全に封印。前歯を立てて笑ったり、高い声で喋ったり、佇まいが“異様”で、ぞっとする。僕も“異様”な役がきたら、彼を参考にしたいくらい。

で、デュポンとマークが深夜、レスリングをする場面、アメリカでは同性愛の暗喩として解釈され、モデルとなったマーク本人が否定する騒ぎになったそう。ベネット・ミラー監督の前々作『カポーティ』はそんな話でしたが、本作はグレーな演出で、僕はそこにも好感を持ちました。

本作唯一の欠点は、「ゲーテ」読者が、どんな女性を劇場に誘えばいいか想像がつかない点(笑)。この渋さが理解できる女性は素敵なんですけどね。

DATA
2014年/アメリカ
監督:ベネット・ミラー
出演:スティーヴ・カレル、
チャニング・テイタム ほか
配給:ロングライド
2月14日新宿ピカデリーほか全国公開