長らく、おとなしく内気な人はネガティブなイメージを持たれることも多かった。その常識が今、科学的に覆されつつあると語るのは、ゲーテwebの連載「何気ない勝者の思考」も好評の脳科学者・西剛志氏。イーロン・マスクもスティーブ・ジョブズも内向型人間だったと言われているが、彼らの本当の姿とは? 『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』(ダイヤモンド社)の一部を抜粋・再編集して紹介する。【その他の記事はコチラ】
「内向性」にまつわる非常識
「内向的な性格」というと一般的によくないイメージがある人が多く、人生で成功するためには足かせになってしまうと思っている人も多いようです。大人だけでなく、子どもも一人で遊んでばかりで社交性がないと、将来が心配になるという親御さんは多いことでしょう。
しかし、近年、この内向性は決して悪いものではなく、数々のメリットもあることが証明されはじめています。「内向的な性格を直したい」という人は多いですが、必ずしも、内向的な性格であることが問題にはならないこともあったりするのです。
内向的な性格の真実を知っていただくために、近年の研究でわかってきた内向性にまつわる非常識を見ていきましょう。
内気な人は弱い?
「おとなしい人は、心身ともに弱い」。これは内向型に対する誤ったイメージです。 内向的な人は元気がないという印象があるかもしれませんが、実は数々のリサーチからも、全くの真逆で、むしろエネルギーが高いことがわかっています。
外向的な人に聞くと、ほとんどの人が「人と一緒にいると元気になれる」と言います。人と一緒にいることで、会話をしたり励ましの言葉をもらったりして、人から元気をもらえるからです。人とつながることでエネルギーを充電しているとも言えるでしょう。ある意味、自分でエネルギーを生み出せないため、人からエネルギーをもらうことで元気を回復する人たちです。
しかし内向的な人は、元気を回復したいとき、一人でのんびりしたり、部屋で好きなことをしたりするほうが元気になると言います。なぜなら、内向型の脳は自分一人でエネルギーを生み出せるため、好きなことをやっているだけで元気を回復できるからです。
舌の上にレモン汁を垂らして、どのくらい唾液が出るか調べる実験があるのですが、外向型の人よりも内向型のほうが、なんと50 %も多く唾液が出ます。
つまり、内向型の脳は、ほんの少しの刺激でも、強く反応する高いエネルギーを持っているということなのです。18〜27歳の若い人たちを調べたリサーチでも。内向性が高い人は外向型の人よりも、生理学的な代謝が30 %も高いという報告もあります。
一人ではエネルギーを生み出せない外向型に対し、ふだんから脳の覚醒レベルが高い内向型は、一人でも楽しめる大きなエネルギーを持っていることが科学的にわかってきているのです。
内向型は孤独に強い
「内向型」の強さに関して、もう一つの興味深いリサーチがあります。
それは、「内向型は孤独に強い」ということです。
米国ジョージタウン大学でおこなわれた、新型コロナウイルスが発生する前(1995〜2020年2月)と、パンデミックのコロナ禍(2020年3〜12月)の生存率を比較した調査があります。25〜85歳を対象に、内向的な人と外向的な人ではどちらが生き残りやすいか、調査しました。
その結果、コロナ以前は、内向型よりも外向的な人の生存率のほうが約16%も高かったのですが、コロナ禍では真逆の結果になりました。内向的な人のほうが外向型よりも生存率が33 %も上がったのです。
現在いろいろな説が考えられていますが、その一つは、外出制限が行われて人に会えない環境では、外向的な人はエネルギーが回復できず生きる意欲が下がってしまったのではないかと言われています。
自粛ムードが続き、リモートワークが当たり前になり、飲み会や旅行も制限される中、他者との触れ合いでエネルギーを回復する外向型は、ストレスがたまり免疫力も下がってしまったのかもしれません。
逆に、一人でもエネルギーを生み出せる内向型は、誰にも会えなくてもストレスを感じにくい傾向にあります。自宅で一人、気楽な毎日を送れた、という人もいるのではないでしょうか。孤独な環境でも生き抜ける力を持っているのが内向型なのです。
また、宇宙ステーションや南極の観測所など、閉鎖的で極度の孤独にも耐えられる人を研究した結果、内向性が高いだけでなく、社会的な交流を楽しめる、いわゆる「両向型」の人が最強であることもわかっています。ブリティッシュコロンビア大学の心理学者らは、このような人たちを「社交的な内向型」と呼んでいますが、やはり外向的な性格だけでは、孤独に耐えることは難しいようです。