「もっとちゃんと考えて」そう言われたことがある人は少なくないだろう。しかし、なんとなく考えただけでは、いつまでたっても「ちゃんと考えた」ことにはならない。では、どうすれば思考の質を高め、"頭のいい人"になることができるのか? 20年以上にわたって、3000社もの企業のコンサルティングに従事してきた安達裕哉氏が伝授する、頭のいい人になるための“黄金法則”とは。45万部を突破し、2023年の年間ベストセラー1位に輝いた『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)より、一部を抜粋・再編集して紹介する。#1/#2/#3
言語化は「あいさつ」と同じ
小並感という言葉をご存知でしょうか。“小学生並みの感想”を略した言葉で、感想が「すごかった!」「面白かった!」「やばかった!」など、小学生が話すような感想しか言えない状態を指します。
しかし、考えてみれば、心から感動した映画を「面白かった!」「泣けた!」としか言えない場合も少なくありません。ではどうすれば小並感から抜け出せるのでしょうか?
高度な言語化能力は一朝一夕で身につくわけではありません。しかし、一部の天才だけが持つ、才能やセンスでもありません。
実は、「言語化」は「あいさつ」とよく似ていて、本質的には「習慣」に依存する力なのです。
たとえば、朝、同じマンションの住人と顔を合わせたとき、知らない人であっても「おはようございます」と言ったほうがよいことは、だれでも知っています。しかし、実際には、自然に「おはようございます」と言える人と言えない人がいます。
自然とあいさつができるのは、あいさつが習慣になっているからです。そしてそれは、過去に習慣化するために実践したからです、あいさつの場合は、多くの場合、子どものころに親などからの「知ってる人にあったらあいさつしようね」としつけられることによって、実践を繰り返し、習慣化します
言語化も同様で、実践を繰り返すことで、言語化する力が身につき習慣化します。しかし、言語化を習慣にする実践方法は、教えてもらう機会があまりありません。
そこで、言語化を習慣にする方法をお伝えしましょう。
言語化の習慣 ネーミングにとことんこだわる
「名前をつけること」は言語化能力が最も必要とされます。「マイブーム」「ゆるキャラ」という独自の言葉を創り、ブームにしたみうらじゅん氏は著書『「ない仕事」の作り方』の中で、
ここ数年ブームが続いている「ゆるキャラ」も、私が名づけてカテゴリー分けをするまでは、そもそも「ない」ものでした。
と述べています。そしてこう続けます。
「ゆるキャラ」と名づけてみると、さもそんな世界があるように見えてきました。統一性のない各地のマスコットが、その名のもとにひとつのジャンルとなり、先に述べた哀愁、所在なさ、トゥーマッチ感、郷土愛も併せて表現することができたのです。
ゆるキャラ、とみうらじゅん氏が名づけたことで、皆がこれを認識できるようになり、産業がつくられました。ネーミングによって、人の行動が変わったのです。
村上春樹氏の小説『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の中に「ル・マル・デュ・ペイ」という言葉が出てきます。この言葉について登場人物が次のように述べています。
フランス語です。一般的にはホームシックとかメランコリーといった意味で使われますが、もっと詳しく言えば、『田園風景が人の心に呼び起こす、理由のない哀しみ』。正確に翻訳するのはむずかしい言葉です。
昔から、電車から田園風景を見たとき、たしかに哀愁を感じることはありました。しかし、私は田園風景に囲まれて育ったわけではないので、ホームシックではありません。これは、“ル・マル・デュ・ペイ”と言うより他ないのです。
そして、この文章を読んで初めて私は、この哀愁の感覚について人に聞くことができました。「こういう感覚を持ったことはない? ル・マル・デュ・ペイと言うらしいけど……」と。
人は、名前のないものについて、深く考えることはできません。逆に名前を生み出すことで、新しい概念についても考察できます。だから、できる人はまず考察の対象の「定義」を考える。そしてその定義に名前をつける。そうすることで、他の人もその概念について考えることができる。
ネーミングは、思考の出発点となるのです。
言語化能力を鍛えるには、名前のついていないものに名前をつけ、その名づけにこだわることが最短の道といっても過言ではありません。