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2024.01.18

五木ひろし、八代亜紀の遺言のような最後の言葉「私の歌、歌ってね」

ハスキーな歌声で“演歌の女王”と呼ばれた八代亜紀さんが2023年12月30日に亡くなった。デビュー前から親交があり、ともに苦節時代を経てスター歌手になった間柄である歌手・五木ひろしに八代さんとの思い出を聞いた。最終回。#1#2

妹のようであり、同志だった

「私の歌、歌ってね」

2023年3月に八代亜紀さんが、BS日テレの番組に出演する際の打ち合わせで、構成作家に言った言葉だ。五木は八代さんが亡くなった報道の次の日にスタッフから聞かされた。

「生涯の親友を一人上げるとすれば、五木ひろし。だから『よこはま・たそがれ』を番組で歌いたい。もし次に、五木さんがこの番組に出演する時には『私の歌、歌ってね』と伝えて欲しい」と。。

この言葉を五木ひろしは八代さんの遺言のように感じている。

2023年3月に八代亜紀さんに言われた言葉を五木ひろしは今も遺言のように感じている。

その翌月、4月にNHKの『うたコン』で会ったのが八代さんとの最後。

八代さんは2023年9月に膠原病で活動を休止し、12月30日に帰らぬ人となった。享年73。急速進行性間質性肺炎だった。

五木と八代さんとの交流は長い。1969年に銀座のクラブ、エースで2人は出会った。三谷謙名義で五木は歌っていた。五木ひろしとして「よこはま・たそがれ」がヒットする前のことだ。

その店に八代がやってきた。店のママに頼まれて五木がギターの伴奏をして八代は歌った。その後八代も「なみだ恋」をヒットさせ、2人は歌謡界でそろって華々しい活躍を続けた。

日本レコード大賞をはじめ賞レースでマスコミはライバル視していたが、2人の関係は銀座時代のまま続いてきた。しかし、八代さんは永眠。

「妹のような、同志のような人を失った気持ちです」

五木はそう打ち明ける。

死をリアルに感じる

五木の「ふたりの夜明け」と八代さんの「雨の慕情」がヒットし、メディアが“五八戦争”と煽った1980年は、実は歌謡界の黄金期だった。

前回のインタビューにも書いたが、山口百恵「さよならの向こう側」、都はるみ「大阪しぐれ」、沢田研二「TOKIO」、谷村新司「昴-すばる-」、岩崎宏美「銀河伝説」、五輪真弓「恋人よ」、もんた&ブラザーズ「ダンシング・オールナイト」、海援隊「贈る言葉」などがヒットしている。

レコード大賞最優秀新人賞は田原俊彦の「ハッとして! Good」が獲得。「青い珊瑚礁」で新人賞になった松田聖子が涙を飲んだ。ベストアルバム賞はYMOの『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』、山下達郎の『MOONGLOW』、長渕剛の『逆流』が受賞している。そうそうたる顔ぶれ。誰がどの賞を受賞しても不思議のない年だった。

「2023年は悲しい別れが続く年でした。昭和の時代から活躍してきた歌手や音楽家が次々とこの世を去りました。YMOのメンバーの高橋幸宏さんが1月、坂本龍一さんが3月に亡くなり、谷村新司君、もんたよしのり君、大橋純子ちゃん、そして年の瀬に八代亜紀さん。年が明けて2024年の元旦には冠二郎君も。訃報が続くと、ほんとうにツラいですね。命の儚さを感じます」

冠二郎さんとは、縁も感じている。五木ひろしの歌手名は、作家・五木寛之からもらった。「ふりむけば日本海」では共作もした。一方、冠二郎さんの最初のヒット曲、「旅の終わりに」も五木寛之が立原岬名義で歌詞を提供している。

「冠君とは個人的な付き合いはなかったけれど、番組ではいく度も一緒になりました。五木寛之先生から彼の話を聞いたこともあります。『旅の終わりに』は僕もカバーしました。彼は個性的な歌手で、情熱的な歌唱でした」

訃報を耳にすると、自分の死をリアルに感じるという。

「僕自身まもなく76歳になります。事務所では、すでに2025年のスケジュールのミーティングをしていますが、自分もゴールに向かっているんだなあ、と考えざるを得ない。50代、60代のころにはそういう感覚はまったくありませんでした。でも今は、自分にもいつか終わりが来る、ならばどう終わるべきか、と思います」

訃報を耳にすると亡くなった人の気持ちも想像する。

「どんな思いでこの世を後にしたのだろう、とね。自分に置き換えて考えます。人生は一度きりです。自分はやりきった、これでいい、と思える人はなかなかいないのではないでしょうか。

2022年に活動50周年を迎えた谷村君はアリスを再結成して、これからまた10年活動を続けると言ったばかりでしたよね。メンバー3人とも70代半ばなのに、あと10年続けるというのだから、相当な覚悟だったはず。ところが自分たちの思いを実現できず、この世を去りました。本人も周りも無念でしょう」

志半ばでこの世を去っていく仲間たちがいる一方、だからこそ残された者には使命があるという。

「よりいっそう頑張らなくてはいけないと思う。僕の夢は、歌謡曲の大全盛期、レコード大賞の視聴率が50~60%だった時代、紅白が70~80%だった時代、大衆が音楽に対して1つになって年末を過ごした時代の栄華を取り戻すことです。

2020年をもって50回出場したNHK紅白歌合戦を卒業しました。もう僕がいる必要がない、と感じたからです。このままでは、歌謡曲や演歌を楽しめるのはBSだけになります。僕は地上波でも歌謡曲を聴ける状況に戻したい。歌謡曲、演歌、ロック……。ジャンルの壁を越えた番組を地上波で実現させたい。

僕が頑張らなくては、誰が頑張るんだ、という気持ちでいます。自分で自分を勇気づけ、叱咤しながら歌っています」

大衆もマスコミも気運を盛り上げていかなくてはいけないという。

「それが、八代亜紀さんも含め歌謡曲で頑張ってきた人たちへの、一番の供養だと思っています」

TEXT=神舘和典

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