盆栽は老後の趣味、なんていうのはとうの昔の話。今や盆栽は“生きたアート”として、高感度の人々の心を鷲摑みにしている。その魅力をひも解く。
自然の姿を器の上で表現するアニミズムの芸術作品
アジアやヨーロッパの富裕層、エグゼクティブを中心に、盆栽の人気が高まっている。日本産のクロマツ盆栽が2020年10月からEUへ輸出できるようになったことも追い風となり、2021年の輸出額は3億7000万円を突破。盆栽は、世界共通語の「BONSAI」として完全に定着し、趣味というよりアートの概念で受け止められている。
なぜ人は盆栽に取り憑かれるのか? その理由は、「盆栽は生きたアート」だからである。盆栽の魅力に取り憑かれ、念願のひと鉢を入手したとしよう。お気に入りの絵画や彫刻のコレクションと並べて眺めるひと時は、まさに美の愉悦。ところが、もし出張などで一週間ほど家を空けたなら、盆栽は変わり果てた姿で家主を迎える結果となる。盆栽は植物であり、生き物である以上、長く愛情をかけ続ける必要があるのだ。
盆栽の醍醐味は、日々成長する姿を近くで鑑賞できることにある。その歓びは他のアートでは決して得られぬもので、盆栽ならではの愉しみといえるだろう。
盆栽とは自然とつながる生きたアート。「鉢植えの樹木」を意味し、大自然の姿を写し取って、器の上で表現したもの。山野にある植物を鉢で育てながら、山水の趣や自然界の在り様を追求するものであり、日本の伝統的な芸術でもある。その根底には、植物という生命に日本人の精神性、きめ細やかな美的感覚が流れている。