2022年6月、政府は「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定した。その基本戦略のひとつが、ブロックチェーン技術を基盤とするNFTやDAOの利用等のWeb3(=Web3.0)の推進だ。特定のプラットフォームに依存せず、データ等を分散管理するWeb3の普及に、国が本格的に踏みだしたと言える。このWeb3にいち早く着目し事業を展開してきたのが、「VR×メタバース」の実現を目指すサードバース代表の國光宏尚氏だ。國光氏が予測する、Web3がもたらす未来とは? 連載「キーパーソンを直撃! 暗号資産は世界をどう変えるか?」とは……
メタバースがもたらす、新しい自己実現と人間関係
現在のWeb3の盛り上がりの裏には、Web2.0への反発もあると思います。1990年代〜2000年代初め頃のWeb1.0時代のインターネットって、どこかヒッピー的で「人々の手に自由を! 」みたいな感じがあったと思うんです。ただ、それがWeb2.0に移行して発信側の人が急激に増えたことで、ユーザーの投稿や個人情報がGAFAといった巨大プラットフォーマーに集約されるようになってしまった。Web1.0時代の「みんな平等」というカルチャーが覆され、富や権力が一極集中したことに対する揺り戻しが今起こっていると感じます。
そうしたなかで、DAOがちょっとしたブームになっています。DAOとは、ブロックチェーンを活用した、誰もが運営や活動に参加できる分散型自立組織のこと。DAOが画期的なのは、“インセンティブ”にあります。例えば、株式会社は株主という一部の資本家に利益や報酬が集中するのに対して、DAOは従業員や顧客、ファンといった関係者すべてが、貢献に応じて報酬が受け取れる仕組みになっている。DAOは、貢献と報酬がイコールという“組織のあるべき姿”を実現してくれると期待していますし、今後、社会においてますますその重要性を増していくことでしょう。
メタバースは自分という制約から解放される場
私たちサードバースのビジョンは仮想空間=メタバースの中に、現実の自分とは切り離した新しい自分が生きる場所(サードプレイス)を創りだすこと。現に若い世代に顕著ですが、今はリアルよりもLINEやゲームなどインターネット上(バーチャル)でやり取りする時間のほうが長くなっています。それはわざわざどこかに出かけて人に会うって面倒くさいし、バーチャルの方が便利で楽だと、多くの人が感じているからです。また、バーチャルならば自分が住んでいる場所などと関係なく世界中の人々と交流できるという利点もあります。
現実世界では外見も含め、“自分という制約”からはどうやっても逃れられません。でも、メタバースなら性別も年齢も人種も、なんなら人間でなく動物にだってなれる。属するコミュニティごとにアバターを変えることも可能です。いわば、メタバースでのコミュニケーションが一般的になると、人間がさまざまな縛りから解放されて、ひとりひとりが自由に、より自分らしく生きていけるようになるんです。
VRでリアルと同じ人間関係が築けるように
一時期、オンライン飲み会が流行ったこともありましたが、結局定着はしませんでした。その一番の要因は、今のツールでは相手の細かい表情や仕草といったノンバーバル(非言語)なコミュニケーションが難しいからだと思います。VRは、そういった課題を解決しようとしている。VRが目指すのは、バーチャル上だけどリアルと変わらないノンバーバルなコミュニケーションもできるようにして、人間関係が構築できるようにすることです。
僕はいつも5年後、10年後の日常をイメージして事業の構想を練っています。10年後、VRやメタバースは間違いなく社会に普及していて、バーチャルの領域も広がっていくはずです。しかし一方で、すべてがバーチャルに置き換わるかというと、そうではないと思います。素敵なレストランで美味しいものを食べるとか、夏のビーチでみんなで集まって潮風を全身に感じながらワイワイお酒を飲むとか、スタジアムで大勢の人と一緒に汗だくになってスポーツ観戦するとか、リアルでしか体験できないことの価値はどんどん上がっていくでしょうね。
サードバース/フィナンシェ 代表取締役CEO
國光宏尚
1974年兵庫県生まれ。米国Santa Monica College卒業後、アットムービーに入社。2007年にgumiを創業し、’21年にサードバースおよびフィナンシェの代表取締役CEOに就任。著書に『メタバースとWeb3』がある。
連載「キーパーソンを直撃! 暗号資産は世界をどう変えるか?」とは……
暗号資産やブロックチェーンが持つ世界を変える大きな可能性について、各界のキーパーソンに取材していく連載。今こそ知っておくべき、暗号資産の知識とビジネスへの活用例とは?