お金とは何か、投資とは何かを考える。連載「アフターコロナのお金論」とは……
金融リテラシーの向上に国が注力する時代
金融庁は2022年8月末、2022年度の金融行政方針の全容を明らかにしました。今までは民間金融機関などが進めてきた金融教育について、「国全体として体制を検討する」と明記し、国家戦略として推進するよう提言しました。社会人層を含め全世代を対象にした新たな制度を議論するとのことで、金融商品の販売勧誘ルールも再点検し、金融リテラシー向上を促す環境も整えることになります。
2022年4月には学習指導要領の改訂で金融教育が高校の授業で必修になり、過去の連載でも取り上げた資産所得倍増プランでは、少額投資非課税制度(NISA)の恒久化も進み、この恒久化はニュースでも大きな話題となりました。このような流れから「お金のことを人前で話すのはタブーである」という古い日本の文化から、海外のように家族や友だちとお金について話すことが当たり前の社会になっていくと思っています。
教育に入ったり、国家が本腰を入れるということは、文化構築の観点でも大きな変化になるのです。
この10年ほどでプログラミング教育が当たり前の社会になったように、金融教育もここから数年かけて当たり前になっていき、お金のことをこそこそ話すほうがカッコ悪いという社会へときっと変わっていくはずです。
それではお金のトレーニング。金融庁の調査では、金融教育を行うべきと思う人は67.2%いましたが、実際に受けたことがあると答えた人は何%だったでしょうか?
答えは8.5%。金融教育を行うべきと思う人と、実際に受けたことがある人の乖離は約60%もあるのです。これは、金融教育が日本に浸透していないことの表れだと思いますし、金融教育を提供している機関やソリューションがまだまだ少ないということです。
今回の「金融教育を国家戦略にする」という方針により、この乖離が早く埋まっていくことを願います。また、資産所得倍増プランの中には、金融教育ソリューションの拡充により、個人の金融リテラシーを上げると同時に、金融商品の販売勧誘ルールも再点検し、金融リテラシー向上を促す環境を整えることも検討されるようです。
以前も投資詐欺について取り上げましたが、新聞の社会面をよく賑わすのが、相場から考えても異常な高配当の金融商品に投資をして、結果投資詐欺でお金を失ってしまうニュースです。
ほぼゼロ金利状態の日本で、例えば3年で2倍になるなどの金融商品の勧誘があった時点で、「相場感」からあやしいということに気づくべきなのですが、金融リテラシーが低いことが原因で、売り手側の巧みな話術に騙されてしまう人があとを立ちません。私は金融教育を普及させることで、こういう情報格差を利用した詐欺のない社会にしていきたいと強く思っていますし、1人1人が金融リテラシーを身につけて、自分の身は自分で守るという気持ちを持つ必要があると思います。
さらに、これから始まる変革の時代は「お金についてよく分からない」人を狙って、新しい詐欺や悪徳な金融商品が増えてくることも予想できます。金融教育が遅れているから、金融リテラシーが低いからといって、お金で失敗しても誰も責任はとってくれません。自分の人生を豊かにするのも、貧しくするのも自己責任です。こういった被害を減らし資産形成を加速させるには、やはり買い手(個人)の金融リテラシー向上が欠かせないと思います。
ここでお金のトレーニングです。現在日本の家庭の資産では、何%以上を預金が占めているでしょうか?
答えは50%以上です。この預金率は、先進国の中ではダントツに高い割合となっていて、ユーロエリアでは34.3%、アメリカでは13.3%となっています。さらに投資の観点から株式投資を見てみると、日本は10%しかありませんが、ユーロエリアは18.2%、アメリカは37.8%です。
金融教育において海外の事例を見てみると、この差がうまれた原因がわかります。米国では2000年代初頭に金融リテラシー教育委員会(FLEC)、2010年に「金融能力に関する大統領諮問委員会」が設置され、国家戦略として労働者の資産形成を促してきました。また英国も日本の金融庁に相当する金融サービス機構(FSA)が個人の資産形成促進をサポートしていて、ISA(個人貯蓄口座)制度など早期から積極的な取り組みが行われています。
日本でも金融庁は2005年に金融審議会において「投資サービス法」(現在の金融商品取引法)をつくりました。これは売り手(金融機関)を対象としており、顧客の知識・経験・財産の状況に沿って金融商品を販売するように「適合性原則」を義務付けました。しかし、その後も顧客の利益を顧みない金融商品も存在したため、金融庁は売り手の教育だけでは「貯蓄から投資」が進まないとの現実に直面している過去があります。このような国家レベルでの取り組みの違いも、日本と海外の資産形成の差がうまれてしまっている1つの要因だと言えるでしょう。
ABCashは中立的な金融教育サービスを提供していますが、通われている生徒さんも正しい家計管理や投資などの資産形成をしたいけれど、やり方もわからないし、今までやったことがないという初心者の方が多いです。そんな生徒さんの話しを聞いていると、やはり「投資は怖い」や「詐欺に騙されそう」といった理由で資産形成の一歩目を踏み出せない方が多いのが実情です。
しかし怖いのは知識がないからです。自動車の運転と同じで、教習所で正しいスキルや知識を身につけてから運転すれば、事故にあう確率も減らしながら人生の目的地へと自分を運ぶこともできるのです。金融教育が国家戦略になり、我々買い手(個人)の金融リテラシーが向上することで、お金への漠然とした不安や恐怖心はなくなり、結果として「貯蓄から投資」は前進すると信じています。
最初はYouTubeでも本でもPodcastでも大丈夫です。もしお金に興味を持ったタイミングがあったら、金融リテラシーの情報をシャワーのように浴び続けることです。そのタイミングを逃してはいけません。
思い立ったが吉日なのです。
連載「アフターコロナのお金論」とは……
お金のトレーニングスタジオ「ABCash」を運営する児玉隆洋氏が、コロナ後のお金と資産運用についてレクチャー。お金とは何か、投資とは何かを考える。
Takahiro Kodama
1983年宮崎県生まれ。大学卒業後、サイバーエージェントに入社。Amebaブログ事業部長、AbemaTV広告開発局長を歴任。2018年、海外に比べて遅れている日本の金融教育の必要性を強く感じ、株式会社ABCashTechnologiesを設立。代表取締役社長に就任。2019年、すごいベンチャー100受賞、スタートアップピッチファイナル金賞。著書に『未来のお金の稼ぎ方 お金が増えれば人生は変わる』がある。