芥川賞受賞作品から読み解く、戦後日本の歩み
書店の「文学史」コーナーに新風を吹きこむ、エンタテインメント性たっぷりの戦後日本文学入門が誕生!
本書は、文学好きの科学者と少年のふたりが、タイムスリップをしながら芥川賞作品の時代をめぐり、歴史を体験していくという構成。石原慎太郎の登場と「太陽族」と呼ばれた若者たち、大江健三郎と戦後民主主義中上健次が活躍した頃の新宿の街の風景、あるいは村上龍と高度経済成長期の終わりなど、日本社会と文学との深い関係が、分かりやすく丁寧に解説されている。時代としては、石原慎太郎が芥川賞を受賞した1956年から始まり、2015年にお笑い芸人の又吉直樹が『火花』で賞を獲ったところで終わる。
「日本文学史」というと、きっと国語の教科書のような小難しい内容を想像してしまうのではないだろうか? しかしこの本は、全編ふたりの会話を中心に話が進んでいくので、戦後の文学史から芥川賞の歴史にいたるまで、肩肘張らずに楽しく読めるところが魅力。文学史にそこまで興味がない、芥川賞受賞作品にもあまり触れたことがない、という方にこそ読んでほしい。戦後日本で出版された面白い小説たちが、存分に紹介されているから!
『タイム・スリップ芥川賞「文学って、なんのため?」と思う人のための日本文学入門』
菊池良 著 ダイヤモンド社 ¥1,760
Text=三宅香帆
1994年高知県生まれ。書評家、作家。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。著書に『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『女の子の謎を解く』等がある。