重い燃料は現地で調達! 軌道常駐の〝ガソスタ〞『Orbit Fab』
大学時代に宇宙移住を支える産業の可能性に触発され、拠点をin-space、すなわち地球ではなく宇宙軌道上に構えた永続的ビジネスが成功の鍵を握ると考えたのが、サンフランシスコを拠点とするオービットファブのダニエル・フェイバーCEOだ。
「前例がないから自分で起業するしかない」と、その実現に向けて着々とマイルストーンを築くフェイバーCEOは、豪タスマニアの出身。航空宇宙や採鉱産業界で起業と成功を重ね、2018年に「宇宙のガソリンステーション」を実現するスタートアップとして同社を創業した。
「通信衛星は活発な宇宙産業プレイヤーですが、軌道を周回する何千もの人工衛星は、燃料切れで姿勢制御ができなくなるとリタイア処置となり、運営者にとっては数億円の損失となります。この宇宙産業の急所は、衛星に推進剤さえ補給できれば解決するのではとヒアリングをしたところ、大きなニーズがあることがわかりました」
現在、宇宙産業の大部分を占めるのは、通信をはじめとする商業衛星だ。軌道を周回する何千もの人工衛星が、打ち上げ時に搭載する燃料量に制限されずに運用できるというビジネスモデルに、シリコンバレーのベンチャーキャピタルは沸き、トップクラスのエンジニアチームの提供を伴う投資も舞いこんだ。
「維持可能な宇宙事業は、コストを削減する最新技術と、経済利益の高いビジネスモデルの融合でこそ生まれます」
使い捨ての自動車がないように、衛星や宇宙資産の稼働年数が延長され、打ち上げコストが低下すれば、宇宙産業全体がより活発になると見込んだのだ。
軌道上の燃料補給が導く、宇宙産業の近未来
オービットファブが実現を目指すガソリンスタンドは、軌道上の燃料タンカーと、テンダーと呼ばれる燃料補給シャトルからなり、そこに燃料補給対応の人工衛星がランデブーする構造だ。両者を接続し、燃料を送りこむための装置である「RAFTI」は独自に開発。ランデブーする衛星に合わせてカスタマイズした燃料供給が可能だという。
「想定顧客は人工衛星、ロケット、宇宙ホテルなど軌道上の活動に燃料を要する宇宙資産すべて。日本の企業だと、宇宙デブリ除去サービスを行うアストロスケールや、月を目指すアイスペースなどに注目しています」
昨年末までに、官民合わせて6億円を超える投資を受けた同社は、’19年にはISSでの液体移送実証実験を行い、困難といわれた微小重力下での液体移送に成功。今年7月にはスペースXのファルコン9で燃料タンカー「Tanker-001 Tenzing」を打ち上げ、来年は燃料供給実験に挑む予定だ。
現在のスタッフ数は20名だが、年末までに50名に増やす勢いで、一丸となって「リアルな仕事を猛スピードで成し遂げる」人材を募集している。
「創業以来、オービットファブの成功を確信しているのは、共同創業者のジェレミー(・シール)、主任エンジニアのジェイムズ(・ブルティチュード)を筆頭に、ビジョンとプロセスを分かち合うチームが初期に揃ったから。チーム全体が同じゴールに向かって各々の得意分野で突っ走ることが、俊敏で柔軟な開発につながっています」
フェイバーCEOは、宇宙産業においても、将来性や夢に留まらない、経済的利益をもたらすビジネスモデルが投資を促すと断言する。この夏には丸紅ベンチャーズからの大型投資による資金調達を終え、次なるステップに向けて最先端の宇宙産業が集結するコロラド州へ移転予定。宇宙に〝ガソスタ〞がオープンする日は目前だ。
『Orbit Fab(オービットファブ)』HISTORY
2018年 オービットファブを起業。初期投資により燃料タンク、液体移送実験計画を始める
2019年 ISSでの液体移送実証実験「Furphy」に成功
2020年 米空軍契約(約3 億円)で燃料移送インターフェイス「RAFTI」のフライトモデルを完成。資金調達総額が6億円を超える
2021年 燃料タンカー「Tanker-001 Tenzing」打ち上げに成功
※宇宙の最前線で活躍する仕事人の徹底取材を始め、生活に密着した宇宙への疑問や展望など、最新事情がよくわかる総力特集はゲーテ11月号にて!