宇宙通信インフラ『Infostellar』。災害対策に衛星画像を使えるようになる可能性も
現在世界では、年間約1000基の衛星が打ち上げられている。しかし衛星は周回しているため、地上に設置された1台のアンテナと通信可能な時間は1日のうち1時間程度。
しかもアンテナの設置費用は1台あたり数千万円〜数億円と高額。ならば、世界中に設置されたアンテナをシェアリングして、低コストで衛星とアンテナの通信機会を増やし、より多くの情報を宇宙から得られるようにしようというのが、インフォステラが行っている事業だ。
「このプロジェクトが進めば、衛星からより多くの情報を低コストで得られるようになります。例えば、衛星が撮影した地上画像を24時間得られるようになれば、地表や地盤の変化などを早期に察知できます。災害対策に衛星画像を使えるようになるかもしれない。衛星からの情報が、現在のGPSのように私たちの生活に自然と入りこみ、ライフスタイルそのものを大きく変える可能性を持っているのです」
倉原直美CEOは、研究者を経て衛星管制システムの会社などで勤務した経験を持つ。
「衛星は複雑なところが面白い。頭脳があって、センサーがあって、動力源も持っている。ロボットみたいなんですよ。打ち上げた後、軌道上で衛星を捉えられない時間が長くて。ちゃんと動いているかドキドキする。でもそれも楽しいんです(笑)」
宇宙からのデータをより迅速・手軽に提供する
2016年にインフォステラを創業したのは、衛星から送られる情報をより活用してほしいという思いからだった。
「ずっと衛星にかかわる仕事をしてきて、いろいろな問題が見えてきました。宇宙から得られる膨大な情報をビジネスとして活用するには新しい会社が必要だと考え、無謀にも(笑)起業したんです。経営のことなんて何もわからない。情熱しかありませんでした。そんな状況でも出資してくださる方がいたからなんとかやってこられました」
衛星通信用アンテナのシェアリングは、カーシェアリングのように簡単にはいかない。世界中に設置されたアンテナは、それぞれ仕様も異なり、各国の規制も異なる。それでもインフォステラの事業に理解を示したアンテナオーナーを説得し、ひとつずつパートナーシップを締結。今年6月にはアマゾンウェブサービスとの連携を発表した。
「ようやくスタート地点に立てたという感覚です。宇宙関連のスタートアップは、ITのように短期間に燃料を投下して一気に回収するようなビジネスとは異なります。開発には時間もコストもかかる。大企業との協業や買収も含めて、会社を長く生き残らせながら、機会をうかがう姿勢が大切だと思います」
ビジネスとしての可能性はどう考えているのだろう。
「宇宙は儲かるかといわれたら……世界中に投資したいという人はいるので、うまくやれば儲かる、かな?でも少なくとも私たちの事業は、絶対に必要となるものなので、大きな利益を生みだすと思っています」
2〜3年後には、プラットフォーマーとしての地位を確立して、宇宙産業の一角を担えるようになりたいと語る。
「無事にイグジットできたらエンジニアに戻るのもいいですね。
経営者をやったことで必要なことがいろいろ見えて、技術者としての視野も広がったように思います」
子供の頃から宇宙に憧れ、宇宙飛行士になりたかった。専門知識を学び、募集要項も何度か取り寄せたこともあるという。さまざまなめぐり合わせで、現在は宇宙事業を手がけているが、宇宙に行きたいという思いは、今も変わっていない。
「このまま宇宙開発が進めば、民間の宇宙ステーションができて、そこでインフォステラと契約という話がでてくるかもしれない。その時は代表の特権として"出張"したいですね」
幼い頃からの夢がかなえられる日は、そう遠くないのかもしれない。
『Infostellar(インフォステラ)』HISTORY
2016年 1月にインフォステラ設立。10月にフリークアウト、500 Startups Japan、個人投資家の千葉功太郎氏より6000万円の資金調達を実施
2017年 9月にAirbus Venturesなど6社より計8億円の資金調達を実施。
11月にStellarStation(ベータ版)のオンボーディングを開始
2018年 StellarStationの商用プラットフォームをリリース
2020年 新株予約権付社債により3.8億円の資金調達を実施
※宇宙の最前線で活躍する仕事人の徹底取材を始め、生活に密着した宇宙への疑問や展望など、最新事情がよくわかる総力特集はゲーテ11月号にて!