暗号資産やブロックチェーンが持つ世界を変える大きな可能性について、さまざまなキーパーソンを取材していく新連載。今こそ知っておくべき、暗号資産の知識とビジネスへの活用例とは? 連載「キーパーソンを直撃! 暗号資産は世界をどう変えるか?」vol.2
ブロックチェーンは内容の改ざんが事実上不可能
ビットコインに代表される暗号資産だが、それを支えるブロックチェーンという技術はいったいどのようなものなのだろうか。前回に引き続き、国内最大級の暗号資産取引所を運営するビットフライヤーの創業者・加納裕三氏に、ブロックチェーンの基本知識と昨今の実用例について聞く。
暗号資産のことを学ぶうえで欠かせないのが、分散型公開台帳と訳されるブロックチェーンの技術です。
ビットコインをはじめとした暗号資産の取引金額や取引日時といったデータはブロック状にまとめられ、このブロックがいくつも連なった取引台帳がブロックチェーンと呼ばれています。高度な暗号技術が利用されているのに加え、数多くの利用者がブロックチェーンを共有しているので内容の改ざんは事実上不可能。分散してデータが保持され、一部で不正や故障が起きた場合でも全体のシステムは落ちることなく稼働し続けます。また、ブロックチェーンを使っていれば異なるシステム同士の結合が容易ですし、複数の企業間でのデータ共有もしやすいことからエンタープライズ(法人)向きな技術でもあります。
NFTやCBDCに見えるブロックチェーンの広がり
僕はブロックチェーンのことをよく、〝データが消せないデータベース〞と説明するのですが、ブロックチェーンは暗号資産以外でも活用されています。近年ではNFT(Non-fungible token)の事例が目立ってきていますね。NFTはコンテンツやデジタルアイテムなどの流通に使われるシステムで、世界で唯一の存在であるということをブロックチェーンの技術を使って保証するものです。すごく簡単にいうと、「偽造不可能な鑑定書と所有証明書つきのデジタルデータ」となるでしょうか。
今年3月には、ツイッター社CEOのジャック・ドーシー氏が2006年3月21日に自身が投稿した、世界で初めてのツイートの所有権をNFT化してオークションに出品したところ、ブリッジ・オラクル社のCEOハカン・エスタビ氏によって291万5835ドル(3億円超)で落札されました。エスタビ氏も「これには『モナ・リザ』と同じくらいの価値があることに数年後にはみんなも気づくだろう」と、投機的な視点で入札したことを明言しています。
国家戦略としても、ブロックチェーンは徐々に広がりを見せてきています。各国の中央銀行の活動のひとつであるCBDC(中央銀行デジタル通貨)の動きにも注目です。特に中国ではDCEP(デジタル人民元)を普及させようと、’20年から一部地域の人たちに無料配布してオープンスコープテストを行うなどの研究が進んでいます。このDCEPの引きだし・預入サービスに対応したATMも設置されました。
そういう動きを見ていると、日本のCBDCもブロックチェーンで動きだすことを期待しています。もしかしたら日本のデジタルマネーがドルに代わる基軸通貨として流通することになる可能性だってありうる。そうすると、国の金融政策としても非常に有利になりますよね。
すべてが自動化された社会がやってくる
今後、ブロックチェーンを使ったシステムが普及すると、DAO(Decentralized Autonomous Organization)と呼ばれている自律分散型組織が広がっていくと僕は考えています。
DAOとは特定の管理者や主体を持たない組織のこと。例えば、アーティストがNFTを用いてDAOに自身の作品の著作権を登録し、その権利を欲しい人が暗号資産を使って料金を支払うとアーティストにお金が入る。そうすると著作権管理会社もシステムの運営会社も必要ないし、すべての取引に透明性と公平性も担保される。
これに限らず、仕組みが全部自動化された、人が介在しないサービスが当たり前になる社会というのは必ずやってくるはずです。それこそ、〝社員のいないグーグル〞のような企業だって出てくるかもしれないし、会社や雇用という概念も今とは違ったものになっていくでしょう。これからやってくる新時代を迎えるために、今の時点からブロックチェーンの概念を学ぶことは重要だと思います。
Yuzo Kano
ビットフライヤーブロックチェーン代表取締役。1976年愛知県生まれ。ゴールドマン・サックス証券会社にてエンジニアとして勤務後、2014年1月にbitFlyerを共同創業。日本ブロックチェーン協会代表理事も務める。
Illustration=細山田 曜