新型コロナウイルスにより、多くの人がお金について真剣に考えたはずだ。先行きが見えないなかで、今後どうお金と付き合い、増やしていけばいいのか。この連載では、お金のトレーニングスタジオ「ABCash」を運営する児玉隆洋氏が、コロナ後のお金と資産運用についてレクチャー。お金とは何か、投資とは何かを考える。
アメリカで話題のSPAC、日本への影響は?
最近経済ニュースで「SPAC」という言葉を頻繁に目にするようになった方も多いのではないでしょうか?
早速ですが、お金のトレーニング。SPACとはなんのことでしょうか?
SPACとは、未公開企業の買収目的として設立される会社のことです。Special Purpose Acquisition Companyの頭文字をとった略で、アメリカの上場手法としてムーブメントを起こしています。日本では、特別買収目的会社といわれますが、白紙の小切手会社(ブランク・チェック・カンパニー)とも呼ばれており、事業の中身が無い状態で、空白で上場しておくことを意味します。そして、上場後に株式市場から資金調達を行い、未公開会社の買収を行うのです。
それではお金のトレーニング。2013年頃、アメリカではSPACによる上場件数は10件程度。そして2021年5月時点、SPACによる上場件数はどのくらいまで増えているでしょうか?
答えは、324件。近年アメリカでSPAC上場が相次いでおり、その勢いが加速しているのです。元々はルールが緩かったこともあり不正が多いことも問題でしたが、近年では投資家保護目的でルールが設けられて対策がなされていることもあり、人気を集めています。
また、事業を行わないSPACになぜ資金が集まるのか? その理由の一つに、SPACの設立者が名の知れた経営者だったり投資家であったり、つまりネームバリューがある人物が多いことがあります。設立者にネームバリューがあることで買収成功への期待が高まり、資金が集まりやすいのです。
続いてお金のトレーニング。ソフトバンクグループはこの上場手法のムーブメントにいち早くのり、アメリカでSPAC9社を上場させました。さて、その9社合計で調達した金額はいくらでしょうか?
答えは、合計33億ドル。日本円にして約3632億円を調達しました。さらにソフトバンクグループは欧州でのSPACも検討しており、さらに巨額の資金を調達していく可能性があります。このSPAC上場については現段階では日本では認められていませんが、日本での導入も検討開始されているのです。
海外に目を向けてみましょう。
2021年4月、アメリカのToppsという老舗駄菓子屋がもうすぐSPACで上場をする予定だというニュースがあり話題を集めました。創業は1938年、日本でいうとグリコやカルビーのような老舗です。2007年にマイケル・アイズナー氏がこのToppsを買収していますが、このマイケル・アイズナー氏は元ウォルト・ディズニーCEO。経営難だったディズニーワールドを救った経営者でもあり、ディズニーの黄金時代を築いた人としても有名です。そんなマイケル・アイズナー氏が買収したため、次なるディズニーになるのか? とも注目を集めていました。そしてToppsは投資家のジェイソン・マドリック氏が運営するSPACの「マドリック・キャピタル・ Acquisition II」と合併をし、SPACする予定です。
ここでお金のトレーニング。ジェイソン・マドリック氏は、Toppsの企業価値を13億ドルと評価をしました。それでは、いくらの出資をする予定なのでしょうか?
答えは、2億5000万ドル、日本円にして約274億円と言われています。アメリカで80年以上の歴史のある老舗駄菓子屋が、SPACで上場し大きな資金を調達するかもしれないのです。
続けて、過去最大と言われているSPACの事例を見てみましょう。
東南アジアの配車とデリバリーを行う会社、Grab。SPACで年内に上場する予定であることを発表しました。
ここでお金のトレーニング。Grabの企業価値総額はいくらでしょうか?
答えは396億ドル、日本円で約4兆3000億円にもなります。それは日本でいうと、Zホールディングス、資生堂、三井物産、三菱商事などの超大企業と近い企業価値となります。
彼らのような高成長のスタートアップにとっては、投資家の層が厚いアメリカ市場で上場することにより、自国で上場を果たすよりも高く評価され投資されやすいと考えたと予測できます。
市場の規模が益々大きくなり加熱しているSPAC市場ですが、もちろん懸念点もあげられています。ただ、Grabのような影響力のあるスタートアップがSPACを利用して上場をすることで、より整備が整い、さらに進化を遂げながら、SPACは新たなユニコーン企業を生み出す手法として拡大するかもしれません。
SPACはお金の世界的トレンドの一例ですが、お金について考えるときに、世界の流れ、日本の流れ、自社の流れ、自分個人の流れ、とそれぞれ大局の流れから予測し考えていくと、日々の経済ニュースがより楽しくなり、自分のお金について自分で考えられるようなお金のスキルが身についていきます。
お金のスキルは、自分の人生を切り開く武器となるのです。
Takahiro Kodama
1983年宮崎県生まれ。大学卒業後、サイバーエージェントに入社。Amebaブログ事業部長、AbemaTV広告開発局長を歴任。2018年、海外に比べて遅れている日本の金融教育の必要性を強く感じ、株式会社ABCashTechnologiesを設立。代表取締役社長に就任。2019年、すごいベンチャー100受賞、スタートアップピッチファイナル金賞。趣味はサーフィン。