35歳・英語力ゼロなのに、会社を辞めていきなり渡英した元編集者。「その英語力でよく来たね(笑)」と笑われて2年後、英語力未だ0.5であえなく帰国。だけど日本にいたって、きっともっと英語は覚えられる! 下手でもいいじゃない、やろうと決めたんだもの。英語力ゼロレッスン「人のEnglishを笑うな」第93回!
Get over someone=(誰かを)忘れる
ロンドンでの語学学校の友人たちとのグループチャットで、先日こんなメッセージが届きました。
「たくさんグループがあって、メッセージが多すぎるから、このグループは退会するね。なにかあったら直接メッセージちょうだい」
ロンドンに住むブラジル人のミュージシャン、ロベルトからでした。つまりは、グループラインが増えすぎたので、そんなに重要じゃないグループからは退出したい、ということです。
ロベルトは、人気者でしたから、グループメンバーのショックは大変大きいものでした。なにせ大好きだったロベルトから、我々は「重要ではない」と判断され、切り捨てられたのですから。いつもくだらない動画を送りあって楽しんでいたつもりでしたが、それすらも彼には迷惑だったのかもしれません。
I can’t get over Robert.
そう、誰かがポツンと送ってきました。
わかるようで、わかりませんでした。Get overってなんだっけ……。
Get over someone=(誰かを)忘れる
ということでした。本来Get overは「回復する」「克服する」という意味です。しかしその後ろに人の名前が入ると、失恋した時に「元彼・彼女を忘れて、乗り越えられた」状態のことをいうようです。こんなふうに使います。
Don’t worry, you’ll get over him before long.
(大丈夫、じきに彼のことは忘れられる)
またシンプルにこういうふうに使うことも多いでしょう。
Get over him!(彼のことは忘れなさい!)
ロベルトにフラれた私たちは、まさに「彼のことが忘れらない……」状態に陥り、しばらくメッセージの最後に「Don’t you? Robert?」とつけて、グループにはもういない彼に呼びかけるのが流行ってしまいました。
まだまだ使えるGet over
しかしながら、このGet overは大変奥深い熟語でした。
まずは、先にお伝えした「回復する」「克服する」はこのように使います。
Get over the flu. (インフルエンザから回復する)
Get over my fear of spiders. (クモ恐怖症を克服する)
「もう風邪治ったの?」など「あれ、クモ苦手じゃなかったっけ?」などわりと日常で多くつかうことの多いフレーズです。
また、Can’t get over となると、「めちゃくちゃ衝撃を受けた」「全然予期してなかった」という意味にもなるというのです。こちらはスラング的に使われているようです。
He couldn’t get over how much money his wife spends this month.
(彼は、妻が今月使った金額に、とても驚いた)
That novel has such a fantastic ending! I can’t get over how good it was!
(あの小説はエンディングがすばらしかった!こんなに素晴らしいなんて思ってなかったよ!)
「衝撃だった、めちゃくちゃ驚いた」を言いたい時は“I was shocked”ばかりを使っていたので、英語にこなれている風を装うには、なかなかいい言い方かもしれません。
最後に、Get overにはさらに、もう一つ、意味がありました。
Get over it! = 受け入れて、前に進みなさい!
Get over someoneだと「忘れなさい」なのですが、この場合は「受け入れる」意味になるのです。まぁ、「元彼を忘れる」というのは「失恋したことを受け入れて次にいく」と同義ですから、それができたら「乗り越えられた」ということになるのでしょう。ひとつの熟語を追っているだけなのになんだか哲学みたいです。
たとえばこんなふうに使います。
It happened such a long time ago. Why don’t you get over it!
(そんなの大昔に起ったことでしょ。受け入れて前に進みなさい!)
覚えたてのGet overを使ってこう、グループにメッセージを送りました。
Robert has already left. We shouldn’t chase him. Get over it!
(ロベルトはもういないんだ。追いかけちゃダメだ。受け入れて前に進もう!)
以降文末に「Don’t you? Robert?」をつける流行は終わりました。ロベルトは去ったとはいえ、彼がわたしたちを嫌いになったわけではないと信じたい気持ちです。そんなふうに思う私はまだ、乗り越えられていないのかもしれません。
Illustration=Norio