いい本というのは読むタイミングによって琴線に触れる部分が違ったり、多様な解釈が発見できたりするもの。だからこそ、良書は何度でも読み込んで自分の血肉にしていくことが大切です。書籍紹介ページの担当でありながら根っからの読書愛好家のゲーテ編集部員が、ビジネスパーソンがずっと手元に置いておくべき、繰り返し読む価値のあるタフな本を紹介します。
西川善文さんの回顧録から学ぶ、いつの時代も変わらない本物の仕事術
『仕事と人生』(講談社現代新書990円)は三井住友銀行頭取や日本郵政の社長を歴任し、昨年惜しまれつつも亡くなった西川善文さんの回顧録。
「ラストバンカー」「鬼上司」「不良債権と寝た男」など、さまざまな異名を持つ西川さんが銀行員として支店営業に携わったのはわずか4年あまり。それ以降のほとんどは、安宅産業の破綻やイトマン事件の処理、そしてバブル崩壊後の不良債権処理だったといいます。
ほとんどの銀行員人生を激しい動乱のなかで過ごし、死に物狂いで仕事に奔走してきたがゆえに、
・仕事ができる人は物事をシンプルに考える
・自ら動かないリーダーに人はついてこない
・人の目が届かない仕事で甘えてはいけない
など、そこから導き出される人生・仕事の教訓は簡潔でありながら凄みと説得力があります。
今、自分が何をすべきかを教えてくれる、新入社員から企業の経営者まであらゆるビジネスパーソンが読んでためになる1冊です。
天才起業家の栄光と転落に自身を省みる
『起業の天才! 江副浩正 8兆円起業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社2,200円)は、リクルートの創業者であり戦後最大の企業犯罪とも呼ばれるリクルート事件の主犯とされている江副浩正さんの人生を追った本。
まだ日本でインターネットが誕生すらしていなかった時代に、今のアマゾンやグーグルといったIT界の巨人たちが作り上げたようなビジネスを構想していた大天才が、この江副さんという人。既存の常識や慣習に一切縛られることなく、まさに自由奔放にビジネスを展開し大成功を収め、時代の寵児としてもてはやされていきます。あのアマゾン創業者、ジェフ・ベゾスがほんの一時期とはいえ、江副さんの部下だったという事実にも驚きました。
優れた発想力と人身掌握術、行動力で道なき道を切り拓き、リクルートを急成長させた江副さんの人生からは、ビジネスをしていくうえで持つべき視点や具体的な手法も学ぶことができます。一方でバブルに浮かれ、徐々に天狗になっていき、傲慢な振る舞いも増え、結果として「世紀の大罪人」として裁かれることになってしまった。その姿にもまた、反面教師として私たちが学ぶところがあるのではないでしょうか。
香川選手が大事にする、人生の指針となる選択の基準とは
サッカー・香川真司選手の著書で、僕自身も編集に携わった『心が震えるか、否か。』(幻冬舎1,760円)。ドイツ・ブンデスリーガを2連覇したボルシア・ドルトムントの中心選手、日本人初のプレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドへの移籍、日本代表の背番号10……。一見すると誰もが羨むような華々しい道を歩んできたように思える香川選手ですが、この本に書かれているのは決してサクセスストーリーではありません。
脚光を浴びる一方で数多くの失敗もしてきたし、後悔もたくさんある。すべてが噛み合いうまくいく時もあれば、チームを干されたり所属チームが決まらない不遇な時期もあった。そんな紆余曲折のなかで香川選手が何を考え、悩み、選択してきたのか。その過程を知ることは、アスリートだけでなく、多くの人の生きる糧になるはずです。
クルピやクロップ、ファーガソンといった名将たちとの会話や移籍の舞台裏、憧れの三浦知良選手からかけられた言葉、兄と慕う俳優・小栗旬さんとの交流など、知られざるエピソードも赤裸々に語っており、まさに香川真司という人のすべてが詰まった濃厚な1冊になっています。