自粛に続く自粛。「人にやさしく」したいと思いながらも、この状況下では狭量になったり、憂鬱な気分になったり。編集部イチの若手で、何年も揉まれながら着実に成長を続けている編集者が、どんな状況下でもやさしい気持ちになれてしまう3冊をご紹介します。
幼い頃の純粋な心が蘇る
まずは心理学者・河合隼雄さんの自伝的小説『泣き虫ハァちゃん』。主人公・ハァちゃんは童謡「どんぐりころころ」の歌詞を読んで、どんぐりの行方を心配して、涙してしまうほど感受性が豊かな男の子。そんなハァちゃんの幼少期から小学生までのエピソードが、岡田知子さんのあたたかなイラストとともに綴られています。ハァちゃんの人を思いやるやさしさに、自然と心が洗われます。
思いやりの心は伝播する
2冊目は、さだまさしさんの小説『風に立つライオン』。実はこの小説、さださんが1987年に発表した楽曲「風に立つライオン」に惚れこんだ俳優の大沢たかおさんが小説化・映画化を熱望して誕生したもの。なので、ぜひ映画とあわせて読んでいただきたい1冊です。映画では、長崎の大学病院からケニアの研究施設・熱帯医学研究所に派遣された日本人医師・航一郎と内戦によって傷を負った少年兵・ンドゥングとの交流がメインに描かれています。小説ではそれに加え、その少年兵が医師となり、東日本大震災発生直後の石巻に訪れる、という続きが。そこでンドゥングは震災のショックにより失語症となった少年と出会い、徐々に関係を築くなかでその少年は心を開いていきます。このエピソードを通して、航一郎の思いがンドゥングの心にしっかりと受け継がれ、それが次の人へと渡っていっているのだなと思い、心があたたかくなりました。私自身、何を次の世代に伝えていけるのか、考えさせられます。
悩み苦しむ人にいかに寄り添うか
最後は現役の医師でもある南杏子さんの小説『いのちの停車場』。長年、東京の救命救急センターで働いていた62歳の医師・咲和子が実家の金沢に戻り、訪問診療医として働くところから物語は展開します。その訪問先の患者たちは東京の救命救急センターで向き合ってきた患者とは異なり、怪我や病気を治して命を救うというよりは、その命を見送るものばかり。そんな勝手の違う状況に、戸惑う咲和子ですが、患者との出会いや別れを通してさまざまなことを学んでいきます。医者というのはただ病気や怪我を治すだけではない。患者ひとりひとりにいろいろな事情や思いがある。それを汲み取って、患者と寄り添う咲和子の姿に、医者という職業のイメージが一変しました。辛く苦しい状況だからこそ、人を思いやる気持ちはいつも忘れずにいようと思わされた1冊です。