大腸をはじめ、身体のいたる場所に存在する菌。菌のバランスを崩さず、うまく付き合うことが、揺るがない身体、肌、髪をつくる。
菌ケアで体内量を整えれば自己回復力が最強に
脳と腸は常に情報を交換し合い、互いに影響を及ぼし合う「脳腸相関(のうちょうそうかん)」といわれる関係にあるが、近年、これに腸に住みつく腸内細菌が影響を及ぼしていることがわかってきている。例えば、腸内環境が乱れていると睡眠の質が悪くなる。逆に睡眠の時間が短いと腸内環境が悪くなる。さらに、睡眠の質が悪いとより高カロリー・高糖質なものを食べたくなる傾向に。
また、自律神経が乱れているとストレスの影響を受けやすく、ストレスを受けると腸内環境が悪くなる。日々仕事や会食をこなしている人はマイナスのスパイラルをいくつも持ち合わせている。だからこそ「菌ケア(=体内の菌を整えるための行動)」は、闘うビジネスパーソンこそ取り入れてほしい習慣なのだ。
人間を取り巻く常在細菌は実に1000兆個以上。その菌と正しく付き合うことが、未病を防ぎ、健康な髪や肌、身体を手に入れられる秘訣だという。菌ケアの提唱者、KINS代表の下川穣(ゆたか)氏が菌と関わったきっかけは自身の経験から。
「福岡で歯科医師をしていたのですが、上京して勤務したクリニックが、さまざまな疾患に対して腸内、口腔内の細菌に着目したアプローチをしていたんです。ちょうどその頃、病院が有名大学と菌についての共同研究をしていたので、最先端の論文を読む機会に恵まれ、菌への興味が湧きました。それと同時に激務とプレッシャーの影響からか、左耳が難聴になり、29〜32歳まで固形の便が一度も出たことがないひどい状態でした」
菌の効果を知っていくうちに自身の生活を改め、菌と上手に付き合いだした途端、体調が好転。そこから菌との密接な関係が始まり、菌ケアを提案・サポートするブランド「KINS」を立ち上げるにいたった。
菌は皮膚、頭皮、内臓、生殖器など、身体中のあらゆる場所に存在している。そして人間の身体には約1000種類の菌が存在し、その中で種類と数が最も多く存在するのが大腸だ。
「もし大腸に菌がひとつも存在しないとしたら、消化ができず、いたるところに不調が出て、まともに生きていけません」
それほど菌の働きが身体にとって重要なのだ。さらに下川氏は、善玉菌・悪玉菌という考え方は古いという。
「腸内環境がいいというのは、大腸の中の菌のバランスが取れているということ。善玉菌がよくて悪玉菌が悪いと言われていますが、どちらもあるべきで、要は数のバランスなんです」
そもそも人間の身体は菌のバランスが取れるように設計されているという。バランスを乱す原因は、食生活であったり、ストレスであったり、日本人特有の洗いすぎなどの外的要因。
腸活を菌の観点から取り入れる
「白髪や抜け毛の原因には、頭皮の炎症が考えられます。男性は皮脂を取り、頭皮がすっきりするシャンプーを選びがちですが、そういうものはアルコールや洗浄力の強い界面活性剤が含まれ、頭皮の菌のバランスを崩しがち。また、肌荒れも菌のバランスが崩れ、原因となる菌が増えて悪さをしているということ。こういった頭皮や肌に存在する菌のバランスにも、腸内環境のよし悪しが影響を与えることがわかっています」
つまり腸活=菌ケアなのだ。菌と正しく付き合うためには、まず発酵食品やサプリメントなどを利用して菌を適度に取り入れる。次に菌を育てる。そして本来バランスよくコントロールされている菌の邪魔をしない。このなかで自分ができることを実践してみてほしい。例えば下川氏自身は腸内環境のために、発酵食品を食事に加え、2ヵ月間徹底したグルテンフリー生活を行ったという。
「頭皮や身体を洗うものは弱酸性を選び、菌のバランスを阻害しない工夫もしました」
また、体内にある菌を育てるには発酵食品やサプリメントで菌を補うほか、緑茶などに含まれるポリフェノールや食物繊維、青魚などに含まれるオメガ3脂肪酸を摂ることが重要。会食の際は和食を選ぶだけでも違う。
さらに適度な運動も菌ケアのひとつだという。
「ストレスを排除することは難しいですが、日常生活に運動を取り入れることで腸内環境が整います。激しい汗をかく運動であれば週に70分、ウォーキング程度であれば週に150分。これを毎週行うのも、立派な菌ケアです」
ところで飲酒時の注意点は何なのだろうか。
「腸のためにビオディナミやオーガニックといった、ナチュールのワインを選んでください。菌を育てるためにはポリフェノールが多く含まれる赤ワインがお薦めですが、酸化防止剤を避けるほうが菌活には有効です」
下川氏のアドバイスに加えて、菌ケアを普段の生活に取り入れやすいアイテムを編集部でもセレクトしてみたので、ぜひ参考にしてほしい。除菌、抗菌ばかりに目が行く昨今。上手な菌ケア習慣を心がけたい。
菌ケア3ヵ条
1. 菌を入れる
納豆(納豆菌)や味噌(酵母菌)、ぬか漬けやヨーグルト(乳酸菌)は比較的摂りやすい食品。さらにサプリメントやドリンクなども利用して毎日摂取するといい。
2. 菌を育てる
ポリフェノールや水溶性食物繊維、オメガ3脂肪酸などが菌を育てる。水溶性食物繊維には、ネバネバを出す海藻類や血糖値を抑えるという菊芋などがある。
3. 菌の邪魔をしない
菌の餌となる皮脂を取りすぎる界面活性剤をできるだけ避け、弱酸性を選ぶ。高脂質や小麦を使った食品を抑える。外食はなるべく魚など和食に切り替える。
22種類を凝縮! 菌のバランスを最適に保つ【入れる】
飲んだ直後に実感! トップオブ乳酸菌飲料【入れる】
「オメガ3」を手軽に摂取【育てる】
抜け毛や白髪を防ぐ頭皮の菌ケア【邪魔しない】
頭皮のpH値を健康に整える【邪魔しない】
下川 穣
KINS 代表取締役。1985年福岡県生まれ。都内医療法人にて理事長を務める。2018年KINS設立。
Illustraition=Adrian Hogan