2024年のPGAツアーで最も成長した選手、MIP(Most Improved Player)を独自の視点で選んでみた。吉田洋一郎コーチによる最新ゴルフレッスン番外編。
2024年シーズン飛躍した3人の選手
2024年を振り返り、最も成長した選手「MIP(Most Improved Player)」を独自に選んでみたい。
米バスケットボールのNBAではMIPの表彰があるが、PGAツアーではルーキーオブ・ザ・イヤーがその役割に近いと言えるだろう。
今回はルーキーに限らず、2023年末からワールドランキングを100位以上アップさせた選手のなかから、独自の視点で印象に残った選手を選出したいと思う。
2024年シーズンの躍進が印象的だった選手として、29歳のマックス・グレーザーマン(185位→37位)、27歳のマット・マッカーティ(430位→49位)、日本で優勝した30歳のニコ・エチャバリア(388位→71位)の3人の名前を挙げたい。
ニック・ダンラップ(4121位→32位)も素晴らしい活躍をしたが、ルーキー・オブ・ザ・イヤーを受賞したということもあり、ここでは選外としたい。
※()内は2023年末のワールドランキング→2024年12月23日更新時点のランキング
7月以降に突如として覚醒した3人
29歳のグレイザーマンは2017年にプロに転向し、2024年下部ツアーから昇格したルーキーだが、2年前には手首を負傷して手術を受けて引退を考えたこともあるという苦労人だ。
7月末の3Mオープン前のグレーザーマンのフェデックスカップ・ランキングは88位。125位以内のシード権はほぼ間違いない位置にいたものの、プレーオフに進出できる70位以内には届いていない状況だった。
そんな厳しい状況のなか、レギュラーシーズン残り2試合となった3Mオープンで、グレイザーマンは、最終日に首位と8打差の15位タイからのスタート。アグレッシブなゴルフを展開して63を出して2位に入った。
次戦、レギュラーツアー最終戦のウィンダム選手権でも、グレイザーマンは2日目に60で回って優勝争いに絡むと、3日目終了時点で2位に2打差をつけて首位に立った。
最終ラウンドも後半13番パー4でセカンドショットを直接カップインしてイーグルを取り独走状態となったが、続く14番でティーショットをOB。そのホールを+4としてしまった。
15番のバーディーで気を取り直したかと思ったが、16番のパー3で4パットと崩れ、終わってみれば首位に2打差の2位とまさかの逆転負けを喫してしまった。
だが、この2試合連続で2位となったことによってプレーオフシリーズに滑り込み、プレーオフ第2戦のBMW選手権まで進出。フェデックスカップランキング50以内に与えられる翌シーズンのシグネチャーイベントの出場権を獲得した。
その後のフェデックスカップ・フォールでも、ZOZOチャンピオンシップでは最終日を最終組で優勝争いを演じて2位、ワールドワイドテクノロジー選手権でも4位と好調を維持した。
マッカーティは下部ツアーのコーンフェリーツアーで3勝し、ポイントランキングも1位を獲得。「年間3勝」の資格で10月のフェデックスカップ・フォール第2戦、サンダーファームズ選手権からPGAツアーに昇格した。
すると翌週に開催された第3戦のブラックデザート選手権でいきなりの優勝。初日から首位争いに加わり、3日目に首位に立つと、最後は2位に3打差をつけての勝利だった。
同一シーズンで下部とレギュラーの両ツアーで優勝した選手は2005年のジェイソン・ゴア以来だ。
マッカーティーはコーンフェリーツアーで賞金王となったが、シーズンが残り3ヵ月に迫った6月末まではポイントランクは27位。ベスト10フィニッシュは2回のみでPGAツアー昇格ラインの30位が気になるポジションだった。
そこから2ヵ月で3勝を挙げ、9試合中7試合でトップ10に入るラストスパートを見せる。そして10月13日から行われたブラックデザート選手権で優勝し、わずか4ヵ月で人生を大きく変えた。
ZOZOチャンピオンシップで優勝したニコ・エチャバリアを覚えている人は多いだろう。タイガー・ウッズが持っていた大会最少ストローク記録を1打上回るトータル260打の優勝は素晴らしかった。
エチャバリアは好不調の波がある選手。予選落ちの試合が多いものの、首位争いに加わるとスイッチが入って強さを発揮するタイプだ。
2023年は26試合中7試合しか予選通過できず、ベスト10入りも優勝の1回のみ。2024年はZOZOチャンピオンシップで優勝するまでは27試合出場して15試合の予選通過にとどまり、ベスト10は1回(ダブルス戦のチューリッヒ・クラシック・オブ・ニューオリンズ)のみという成績だった。
2023年に比べて成績は上向いたものの、予選を通るので精いっぱいといったレベルの選手だった。それがフェデックスカップ・フォールに入り、ZOZOで優勝した後は第6戦で優勝争いを演じ、最終戦も1打差の2位タイを記録して覚醒した。このプレーぶりが本物なら、2025年シーズンの活躍も期待できるだろう。
MIP候補を3人挙げたが、そのなかでグレイザーマンを2024年のMVPに選出したい。その理由は、プレッシャーのかかるレギュラーシーズン残り2試合で優勝争いをし、プレーオフシリーズに進出したことだ。
マッカーティとエチャバリアの2人も劇的にレベルアップした点は評価できるが、フェデックスカップ・フォールでの勝利よりも、フィールドの厚いレギュラーシーズン、しかもシーズン終盤での2試合連続の2位は価値がある。
不思議なことに、今回の3人はいずれも7月以降に突如として調子を上げている。
グレイザーマンは2023年のコーンフェリーツアーでも、7月以降に2位に2回入り、順位を35位から9位に順位を上げてPGAツアー昇格を決めており、シーズン後半にエンジンがかかるタイプなのかもしれない。
2024年は前半からエンジンをかけ、シルバーコレクターの汚名を返上して悲願の優勝に手が届くのか注目したい。
コンパクトなトップに必要な3つのポイント
グレイザーマンのスイングは、コンパクトなトップ・オブ・スイングが特徴的だ。このコンパクトトップをつくるときに欠かせないのが、体と腕のシンクロだ。
体と腕をシンクロさせるためには、バックスイングで腕の運動量を減らし、体の運動量とバランスをとる必要がある。両肘と胸の空間を変えないように、ゴムボールを挟んだり、片手での素振りをするといいだろう。
そして、切り返しのタイミングを早くすることで、トップ・オブ・スイングの位置を小さくすることが可能になる。
バックスイングを開始したら、トップ・オブ・スイングにクラブが到達する前に切り返し動作を行うことでオーバースイングを防ぐことができる。そして、切り返しでは左足で地面をしっかり踏み込むことで、コンパクトトップでも地面反力を使って飛距離を出すことができる。
コンパクトトップは飛距離よりも方向性を重視したいゴルファーに向いているが、オーバースイングで悩んでいる人も参考にしてほしい。
動画解説はコチラ
◼️吉田洋一郎/Hiroichiro Yoshida
1978年北海道生まれ。ゴルフスイングコンサルタント。世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベター氏を2度にわたって日本へ招聘し、一流のレッスンメソッドを直接学ぶ。『PGAツアー 超一流たちのティーチング革命』など著書多数。