今回はバイオスイング・ダイナミクスについて。連載【吉田洋一郎の最新ゴルフレッスン】とは……
【スイングに「唯一の真理」は存在しない】
多くのスポーツにおいて、測定機器の進化や人体の動作に関する研究が進み、効率的な体の動かし方や最大限に力を発揮するフォームの重要性が提唱されるようになってきた。なかでもゴルフはそれらの研究が盛んなスポーツと言っていいだろう。毎年のように、新たなスイング理論が提唱され、ゴルフ専門誌などで特集が組まれたりする。書籍や雑誌、動画などで最新の理論を勉強して、練習している人も多いだろう。
スイング理論を勉強することは、決して悪いことではないのだが、内容をしっかり理解せずにスイング理論を取り入れると不調の原因となることがある。特に混乱しがちなのが、同じことを言っているにも関わらず、スイング理論によって、正解であったり不正解になったりするケースがあることだ。例えば、「頭を動かしてはいけない」というレッスンがあるが、「頭は上下動するので固定せずに動かしてもいい」というレッスンもある。前者は垂直軸のスイングタイプ、後者は前後軸のスイングタイプの教え方だが、どちらも間違ったアドバイスではない。しかし、前提となるスイングモデルを理解せずに、「頭をどのようにするべきか」という小さなパーツにこだわると、どちらが正解なのかわからずに混乱してしまう可能性がある。
このような問題が起こる前提として、多くのゴルファーが真っすぐ遠くに飛ばせる「スイングの唯一の真理」を求めていることがある。だが、私が世界中のゴルフコーチや研究者から話を聞いたかぎり、そのような誰にでも当てはまる「絶対的なスイング」は存在しないという結論に至った。近年の世界のゴルフティーチングは、一つの型にクライアントを合わせる「大量生産型」のレッスンではなく、それぞれのゴルファーに合った最適のスイングを指導する「オーダーメイド型」のレッスンを行う傾向にある。スイングタイプごとに正解がたくさんあるため、アマチュアゴルファーは混乱しやすくなっている状況ともいえる。
【それぞれの体に合ったスイングを身につける】
PGAツアーでは基本に忠実なスイングをしている選手が多いが、ジム・フューリックのように個性的なスイングプレーンの選手もいる。グリップだけをみても、タイガー・ウッズのようにスクエアに握る選手がいれば、ザック・ジョンソンのようにストロンググリップの選手、スコッティ・シェフラーのようなウィークグリップの選手もいる。
このグリップの握り方によって、スイング中のフェースの向きが変わる。ストロンググリップはスイング中にフェースが閉じやすく、ウィークグリップはフェースが開きやすくなる。このようにフェースの向きが変われば、おのずとクラブの使い方や体の使い方も変わり、スイングシステム自体が全く異なるものになる。
一昔前は、すべての人が教科書通りのスクエアグリップを身に付けたり、オンプレーンスイングを習得するすることが上達への道だと信じられていた。しかし、近年では人それぞれ骨格も関節可動域も異なるため、それぞれに適したグリップやスイングプレーン、そしてスイングタイプを習得することが効率よく上達できると考えられている。
そのようなゴルファーそれぞれの体に合ったスイングを作ることを目的としたスイング理論がある。アメリカのゴルフインストラクターのマイク・アダムスとE・A・ティシュラーが提唱する「バイオスイング・ダイナミクス」だ。私はバイオスイング・ダイナミクス関連の講習を合計約15日間受け、マイク・アダムスの自宅でも個人指導を受けてきたが、コーチがこの理論を使いこなして生徒に教えるのは簡単ではない。しかし、アマチュアゴルファーがテストによって、自分の傾向を把握するために大いに役立つ。
バイオスイング・ダイナミクスでは、動作テストを行って自分に合ったグリップやスイングプレーンを把握することから始める。自分に合ったグリップを確認するテストの方法だが、最初に両手の手のひらを合わせてアドレスの形を作る。その後、両肩の位置を動かさずに右腰の高さくらいまでバックスイング動作を行い、右手のひらがどちらを向いているか確認してみよう。このとき、両脇は軽く締め、右肘は曲がってもいい。
肩や肘の関節のつき方は人それぞれ異なるので、右手のひらが下を向く人、上を向く人、正面を向く人など、人によって様々な結果になる。このテストの結果から、右手のひらが下を向く人はウィークグリップ、上を向く人はストロンググリップ、正面を向く人はスクエアが向いているということがわかる。大まかにいうとこの3種類のグリップになるが、バイオスイング・ダイナミクスではさらに細かくグリップタイプを分ける。
グリップタイプによってフェース向きが変わるため、スイング動作も異なってくる。特に、ダウンスイング後半でクラブをリリースするタイミングが変わるので注意が必要だ。ウィークグリップはフェースを開いて使う傾向があるので、早めにリリースをしながらフェースを閉じる動きが必要になる。ストロンググリップはフェースを閉じて使う傾向があるので、リリースをせずに体を先行させ、ハンドファーストでインパクトをする必要がある。
その他にもフェースの向きが変わることでスイング中の動作が異なるので、自分のスイングタイプに合った動きを取り入れてほしい。
スイングは人によって千差万別。憧れの選手のスイングが自分に合うとは限らない。みなさんも、自分の体にあったスイングを追求してみてほしい。
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連載【吉田洋一郎の最新ゴルフレッスン】とは……
世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベターの愛弟子によるゴルフレッスン。多くのアマチュアゴルファーを指導する吉田洋一郎コーチが、スコアも所作も洗練させるための技術と知識を伝授する。