GOLF

2022.07.30

なぜ、「猫背」と「右肩かぶり」のアドレスはダメなのか? 

世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベターの愛弟子による、【連載 吉田洋一郎の最新ゴルフレッスン】203回目。多くのアマチュアゴルファーを指導する吉田洋一郎コーチが、スコアも所作も洗練させるための技術と知識を伝授する。【過去の連載記事】

【J・ローズ、PGAプロたちが支持するブル博士理論】

欧米のゴルフティーチング界で注目を浴びているのが、バーミンガム大学でスポーツ科学、運動リハビリテーション科学の博士号を取得し、人の動きのメカニズムや、動作に影響を与える要因などを研究しているマーク・ブル博士です。英国PGAメンバーでもあるブル博士は、2010年に3Dモーションキャプチャーシステムを制作し、スイング中の体の動きを解析。その後、「ブル3D」というスイング解析システムを開発し、多くのPGA選手を指導しています。その中にはジャスティン・ローズやダニー・ウィレット、フランチェスコ・モリナリ、パトリック・リードといったトップ選手が含まれています。

解剖学や生理学、生体力学だけではなく、心理学、環境要因も含めたゴルフスイング分析に取り組んできたブル博士が、効率的なスイング構築法について解説した書籍『ゴルフスイング解剖生理学』(マーク・ブル、吉田洋一郎著・池田書店)から、一部抜粋し再構成したレッスン記事と動画をご紹介します。

【正しいアドレスの基本は美しい直立姿勢】

マーク・ブル博士の分析の中でもっとも興味深く、私(吉田洋一郎)も、日ごろから「その通り」だと感じていることは、エラーの原因がスイング中の動きではなく、実は「アドレス」に潜んでいることが多いということです。アマチュアを指導する場合、合理的かつ機能的で、しかも美しいアドレスをしている人の割合はかなり少なく、多くの場合、まずアドレスの問題点を修正することから、レッスンがスタートします。
 上級者になるほど、アドレスの大切さに気付くようになりますので、練習の際にも時間をかけて、正しいアドレスができているかどうかチェックしたりしますが、初・中級者の場合は、どうしてもボールを打つ動作だけに集中してしまうようです。

アドレスに問題があるというと、クラブを持って、ボールに対して構えたときに何か間違いが生じるだけだと思うかもしれませんが、実は、普段の「立っている姿勢」から問題があるために、正しいアドレスができないというケースも多いです。もっとも多いのは、ブル博士も指摘しているように、首が前に出た「猫背」姿勢です。直立姿勢が猫背の人は、アドレスしても猫背のままなので、上半身が回転しづらく、ゆえに「手」を使ったスイングになりがちです。
 
普段、自分がどんな姿勢で立っているのか、改めて鏡などを使ってチェックしてみてください。横から見たときに、骨盤から胸郭、首、頭が一直線になっているのが、正しい姿勢です。普段、猫背の人が正しい直立姿勢をとると、胸が開いて、まるで上体をのけ反らせているような感覚になるかもしれません。そのくらい、首の骨や背骨が丸まっている姿勢に慣れてしまっているということです。骨盤から頭までを一直線にすると、必然的に両肩、両鎖骨間が開いて、首周りがすっきりした感覚になるはずです。その状態からだと、両肩の高さを水平にしたまま、胸の部分を左右に回すことができます(胸椎の回転)。首が前に出て、両肩が丸まった状態で同じ動きをしようとすると、必ずどちらかの肩が持ち上がってしまいます(代替動作)。つまり、アドレスの際には、胸椎がきちんと回転しやすい状態をキープしたまま上体を前傾させないと、テークバックの動きが正しくできないということなのです。

アマチュアがやってしまいがちな、「アドレスの間違い」を考えてみると、「猫背」と「右肩かぶり」の2つが圧倒的に多いです。「猫背」アドレスは、現代人の標準姿勢が猫背になってしまっている以上、どうしても多くなるのは避けられません。右肩が前に出て肩のラインが開く、「右肩かぶり」アドレスは、「右手」を使って打つ意識が強すぎる人に多い間違いです。それ以外にも、ボールを上げようという気持ちが強い場合、ボールの行方を早く見たいという気持ちがある場合などにも起こります。

【「猫背」と「右肩かぶり」の問題点】

首が前に出たアドレスの問題点は、ブル博士が指摘しているように、両肩が丸まって、胸(両鎖骨間)が閉じた状態になるために、胸椎が回転しづらくなることです。テークバックの動きで考えると、胸の面を後方に向けづらくなるので、どうしても手を使ってクラブを上げてしまいがちです。逆にいうと、トップで体の回転が足りていない人は、アドレスが猫背になっている可能性が高いです。
 右肩が前に出たアドレスでは、ダウンスイングのクラブ軌道がアウトサイドインになりやすいのが、いちばんの問題点です。肩のラインの向きは、クラブを振っていく方向と密接に関係しているので、アドレスで肩が開いている時点で、その方向に振ってしまう確率が高くなってしまいます。これも、スウィングの傾向から逆に考えてみると、アウトサイドイン傾向が強い人は、アドレスで肩がスクエアになっているか、チェックしてみる必要があるといえるでしょう。

アドレスがよくないことで、スイングにもよくない影響がでてしまうということは、裏を返せば、アドレスをきちんと整えると「スイングのエラーが出にくくなる」ということでもあります。そこでこの項では、どうしたら正しいアドレスを作ることができるか、そのやり方を説明したいと思います。
アドレスを整えるには、①体の状態をニュートラルにすること、②正しい順番でアドレス姿勢にはいることの2つが重要です。①のニュートラルな体の状態というのは、骨盤から頭までが一直線にラインナップした直立姿勢を作るというのが、ひとつの目標になりますが、そのためには骨格的に胸郭を正しい「形」にする必要があります。といってもやり方は単純で、大きく息を吸って胸郭をふくらませ、その形を保ったまま息を吐くだけです。普通に立った状態でもできますが、両手を上に上げた状態で息を吸うと、より胸郭のふくらみを感じやすくなると思います。

【胸郭をふくらませると首の詰まりがなくなる】

地球には重力があるので、立っている姿勢では常に上から押しつぶされるような力が加わっていて、それが猫背の原因にもなりますし、たとえ首を真っすぐにしていても首周りが何となく「詰まった」感じになりがちです。両手を上に上げて大きく息を吸うと、胸郭がふくらむ際に自然に胸が開き、首の周辺が持ち上げられて、首の詰まりが消える感じがすると思います。これがニュートラルな胸郭の形です。

【正しい順番でアドレスの形の作り方】

姿勢をニュートラルに整えることができたら、次に大事なのがアドレスの順番です。簡単にいうと、ニュートラルな姿勢で真っすぐ立ち、背中を丸めないように骨盤から前傾、それからひざを曲げて前後バランスを調節し、最後に手の位置を微調整してアドレス完成となります。この中で重要なのはやはり、ひざを曲げる前に上体を前傾させるということで、この順番が逆になってしまうと、必要以上に腰が落ちた、かかと重心のアドレスになりやすいです。また、前傾する際には首から腰までを真っすぐに保つことを意識してください。この意識がないと、首だけを前に倒してしまいやすく、結局、猫背アドレスになってしまう可能性があります。ひざは、上体が前傾して前につんのめりそうになるのを、ちょっとだけ曲げてバランスをとるイメージです。ひざを深く曲げて、下半身を「どっしり」させようとすると、スイング中に足を使いづらくなってしまいます。

アマチュアゴルファーはボールを打つことだけが練習だと思っている人が多いと思いますが、鏡の前でアドレスを確認することも大事な練習です。アドレスは鏡があればどこでも確認することができるので、こまめにチェックをして再現性の高いスイングを作ってみてはいかがでしょうか。

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過去連載記事

TEXT=吉田洋一郎

PHOTOGRAPH=小林 司

COOPERATION=取手桜が丘ゴルフクラブ

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