第一線で活躍するトッププロが愛用するゴルフクラブや高機能なゴルフウェア。名品の陰には匠の存在がある。
人に加えて、「施設のゴッドハンド」ぶりも際立っているのが、日本を代表するスポーツアパレルメーカー、デサントだ。2018年、大阪府茨木市に「DISC(DESCENTE INNOVATION STUDIO COMPLEX)OSAKA」を開設。研究開発の拠点として、日々、よりよいウェアを追求している。
稀有なのは、あらゆる設備がDISC一ヵ所にまとまっている点だ。アスリートの動作や身体的データをさまざまに測定できるのはもちろん、温度や湿度を自在にコントロールできる装置、発汗の影響をチェックすることのできる器具、生地や縫製の耐久性を試験できる機材など、さまざまに揃っており、アパレルの製作、性能に関わるデータを、多角的に確認することが可能だ。
なかでも特筆すべきなのが、ウェアの防水性などを調べることのできる部屋、レインチャンバーだ。従来はシャワーで水をかけるという方法が一般的だったが、それではやはり実際の雨とは異なるということで、デサントがこだわってDISCに設えた。ノズルを製作している会社に協力を仰ぎ、かなりの高さの天井から、30㎜、50㎜、80㎜と、3段階の降雨を再現することができる。外から見ていると、お世辞なしに本物の雨と思ってしまうクオリティーだ。
デサントによると、「ここまでフルに機材や設備が集まっている場所は、おそらく他にないのではないか」とのことで、これまでなら外部の研究機関などにお願いしていたようなテストも、DISC内で実施することができる。DISCにより、デサントの研究開発のスピードが大きくアップしていることは、想像に難くない。
しかも、恩恵はそれだけにとどまらないそうだ。
「外部に検証してもらう形式だと、決まったやり方で、結果だけがフィードバックされます。でもここなら、少し変えたらどうなるか、なぜ起こったのかなど、納得するまでどこまでも追究することができるんです」(デサント 下平佳宏)
これまで、野球、スキーをはじめ、さまざまなトッププレイヤーと関わり、デサント内で「伝説のパタンナー」と一目置かれているゴッドハンドの1人、田中悌二は、また違ったDISCの作用にも目を向ける。
「どの場所も中が見えますから、誰かが何か新しいことをやっているのを、いろいろと見ることができます。そのときに、『いま何してるの?』となって、『こんなのを考えているんだ』『じゃあ、こうするのもいいんじゃないの?』と、アイデアを重ねていくことができたりもする。その結果、最初に考えていた方向とは全然違うものができてきて、『こっちのほうがいいじゃない』といったことも起こるんです」
すでにDISCからは、1枚の生地に伸縮性の違いをつくれる技術や、糸を使わず接着縫製できるスーパーソニック、速乾性だけでなく排熱性も高いCoolist D-Tecテクノロジーなどを使った、非常に優れた製品が市場に送り出されている。今後さらに、従来の概念を完全に覆すようなスポーツアパレルが生み出されたとしても、まったく驚くにはあたらない。