第一線で活躍するトッププロが愛用するゴルフクラブや高機能なゴルフウェア。名品の陰には匠の存在がある。
世界に誇れる日本の総合スポーツ用品企業、ミズノには、優れた職人に称号を与える制度がある。最高位のマイスターは現在、ゴルフ部門で4人のみ。そのうちのひとりが、プロゴルファーのアイアンを調整するクラフトマン、伊藤友男だ。同僚たちは誰もが、「あの人には、かなわない」と、伊藤を敬う。
「なぜですかね。たぶん、削り方なのかなと思うのですが。後輩たちは、僕が削ったものを見ると、『ああ、これは構えやすいですね』と言ってくれていますね」
伊藤がツアープロの対応をするようになったのは、約30年前。2000年代前半には、ミズノがヨーロピアンツアーのオフィシャルワークショップカーを運営していたということで、世界の名だたるプロを相手にしながら多くの国を渡り歩いた経験も持っている。
「プロが求めるものをおぼろげながらも掴めたと感じたのは、ここ10年くらいです。最初なんて、プロが思うようなヘッドに削れなかったですし、なかなか使ってももらえませんでした。ひとりのプロに対して、最高で年間36セットつくったこともあります。話し合って、こういうのはどうですかと提案もしあいながら、1ヶ月3セット。全部、違うんですよ。形、素材、シャフト、仕上げとか、同じものは一つもないんですけど、それでも使ってもらえませんでした。それも、15年くらい前のこと。わりと最近と言えば、最近です。いまもまだ、『答えはあるのかな?』という感じですね。終わりはないですよ」
伊藤はそう言って謙遜するが、彼の技と感覚の確かさを示すエピソードがある。プロがミズノのクラブフィッティングを受けてみると、導きだされたベストなスペックはことごとく、伊藤がそのプロ向けのために組み上げた仕様と一致するそうだ。
「プロが厳しい要求をしてくるのは、困っているからでしょう? より良いものを1日でも早く欲しいんだろうなと。僕も、1日でも早く届けようと心掛けてやってきただけです。技というよりも」
プロからは、無茶と思える要望もある。しかし、伊藤は決して、「できない」と言わない。楽しんでいる節すらある。そこが、一流のクラフトマンたる最大の所以なのだろう。
「例えば、小さいものを大きくしてほしいと言われたこともあります。そのときは、見える角度を変えたり、白っぽい仕上げにしたりして、大きく見えるようにしました。とにかく諦めない、妥協しない、失敗してもいいからチャレンジしてみるというところはありますね。それこそが、クラフトマンかなと。難しいことを、あえてやっていくのがおもしろいじゃないですか。あらゆることやってきましたから、最近、ちょっとネタがなくなってきてるんですけどね(笑)」
長年、伊藤が積み重ねてきた経験と知見は、一般ゴルファー向けの歴代アイアンにも落とし込まれている。10月に発売されたばかりのMizuno Proシリーズも、もちろんそうだ。
「ここに気をつければ構えやすいとか、こんな形を出してほしいといった意見を開発側に伝えています。実際にヘッドを削って見せることもありますよ。みなさんもちゃんとフィッティングを受けて、プロのように自分のスイングに合ったクラブを使ってほしいですね。ライ角やシャフトで、かなり変わってきますから」
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