世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベターの愛弟子・吉田洋一郎による、最新ゴルフレッスンコラム87回目。多くのアマチュアゴルファーを指導する吉田洋一郎コーチが、スコアも所作も洗練させるための技術と知識を伝授する。
目に見えない力で飛ばす、バッバ・ワトソン
新型コロナウイルスの影響でマスターズの延期が決まった。毎年目をこすりながらマスターズをテレビ観戦していたゴルファーは、さぞかし落胆していることと思う。新型コロナウイルスの早期終息と、マスターズが年内に開催されることを祈るばかりだ。今回はマスターズ開催を願って、歴代のマスターズ王者から皆さんの参考になる選手をご紹介したい。
マスターズで2勝を挙げ、PGA 屈指の飛ばし屋として知られるバッバ・ワトソン。その飛距離は40歳を越えても平均300ヤードを超える。2012年のマスターズではプレーオフ2ホール目の10番ホールで林の中から90度近く曲がるフックボールを放ち、ピン下4メートルにつけるスーパープレーを披露。死闘を制し、メジャー初制覇を果たした。
ワトソンは父にクラブの握り方を教わって以来、コーチなどの指導を受けたことがないといい、独自に編み出したスイングは非常に独創的だ。インパクトの瞬間に目標側の足(ワトソンの場合左利きなので右足)が浮き、フォローにかけて右足が背中側に移動して体が開いたフィニッシュになる。ワトソンのような変則スイングは参考にならないと思う人も多いと思う。たしかに、足の動きは大きいし、スイングプレーンはアップライトでオーソドックスなスイング要素はほとんどない。しかし、目で見える動きではなく、目に見えない力の使い方を参考にしてほしい。特にワトソンの地面反力の使い方はアマチュアに大いに参考になる。変則スイングにこそ、スイングにとって重要なヒントが隠されているのだ。
強烈な加重とタイミングのいい抜重が飛距離を生む
バッバ・ワトソンはインパクトで目標側の足が浮き上がっているが、これは地面から縦方向の反力を受けているからだ。地面反力を使ったスイングでは、目標側の足(右利きの場合は左足)に体重をかけて、地面からの反発力を体の回転に利用する。このとき、目標側の足にかける力が強ければ強いほど地面反力も強くなる。
ただし、いくら強い地面反力を加えても、インパクト付近で腰や膝で踏ん張っていると反力を上半身に伝えることができない。そのため、膝を伸ばすようにして力を抜く「抜重」を行う必要がある。ワトソンの場合、目標側の足に強烈に加重し、タイミング良く抜重するのでジャンプしているように見えるのだ。つまり、足が浮き上がっているのは、地面反力を使い切っている証拠だともいえる。
しかも、ワトソンは縦の地面反力だけでなく、体を水平に回すために必要な「トルク」も利用している。そのため、目標方向の足がインパクトで浮いた後に背中側に移動する。この縦方向の地面反力と横回転のトルクよって、体の回転とクラブを振るスピードを最大限に上げているので、ボールを遠くまで飛ばすことができるのだ。
この地面反力を体感するために、素振りでワトソンのスイングの真似をしてみるといいだろう。ダウンスイングで目標側の足を踏み込み、地面から浮いた状態でインパクトを迎え、フィニッシュでは目標側の足を背中側に移動させる。フィニッシュで体と両足が目標方向に正対するイメージでスイングするといいだろう。少々不格好な気がするかもしれないが、地面反力を最大限使うとこのような動きになる。まずは大げさに行って、地面反力を感じることから行ってみてほしい。
縦方向の地面反力と垂直軸方向のトルクを両方使うことは簡単ではないが、飛距離に悩むアマチュアの人は、ワトソンのスイングから加重と抜重のタイミングを学んでほしい。