GOLF

2020.03.13

ゴルフ練習場の「つかんだ!」がすぐに消える理由

世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベターの愛弟子・吉田洋一郎による、最新ゴルフレッスンコラム86回目。多くのアマチュアゴルファーを指導する吉田洋一郎コーチが、スコアも所作も洗練させるための技術と知識を伝授する。

吉田洋一郎

自己流の経験を積み重ねても上達は遠い

ドイツ帝国の初代宰相オットー・フォン・ビスマルクが残した名言として、よく知られている「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」だが、実際の発言は少し違うという。本当は「愚者は自分の経験に学ぶと信じている。私はむしろ他人の経験に学ぶのを好む」といった内容のことを言ったそうだ。

それが年月を経て、「他人の経験」が「歴史」に置き換わってしまったようなのだが、言えるのは「自分の経験」だけで何かを学ぶのは非効率であるということではないだろうか。

これはゴルフにもいえることで、練習やラウンドの経験だけを頼りに上達しようとすることは非効率だ。欧米では、毎日ボールを打つことができるプロゴルファーでさえコーチをつけている。普段あまり練習することができないアマチュアは、自己流に固執すれば思うように上達することは難しいだろう。

練習中やラウンド中に何もかもがうまくいき、「つかんだ!」と感じたことがある人がいると思うが、それはおそらく感覚的なもので、たまたま「ハマった」ものである場合が多い。基本となるフォームや体の動かし方といった「原理原則」が見つかったわけではないため、次のラウンドでは「つかんだ」感覚が消えてどのように打てばいいのかわからなくなる。

パッティングでいえばタッチや距離感といった感覚は、経験により導き出された「帰納法」で身に付けることができる。しかし、フォームやストロークのメカニズムなどは決して自分の経験だけでは習得できない。「パッティングでは手首を動かさずに胸を支点に回転する」などといった人間が普段行わない不自然な動きを、自分の経験だけから導き出すことは難しい。感覚が「帰納法」なら、フォームや体の動かし方のメカニズムなどは一般的理論に基づく「演繹(えんえき)法」で学ぶしかない。

歴史に学び、まずはフォームを身に付ける

ゴルフスイングでは、日常生活でほとんど行わない動作によってボールを打つ。普段行うことのない不自然な動きを行いながら、いかにフォームを作り上げるかが重要になる。

そのフォームを身に付けるのに、効率的な方法は一般的理論に基づく「演繹法」によって知識を学ぶことだ。

その分野の知識は、長い期間かけて多くの人の経験はもちろん、さまざまな実験や検証を積み重ねてできあがる。それは、他人の経験の歴史ともいえる。まさに、スイングの知識を学ぶことは「歴史に学ぶ」ことなのだ。

自己流のスイングやストロークでいくら練習を重ねても、他人が積み重ねてきた歴史に勝るほどの法則を導き出すことは難しいだろう。むしろ、その試行錯誤の過程で変な癖がついて遠回りになるかもしれない。既に世の中にある方程式を、今さら自分で発見する必要はないのだ。

ゴルフというスポーツはある一定のレベルまでは自己流でもうまくいくが、壁にぶつかった時に正しい知識を身に付けないとブレークスルーはできない。広く情報収集をして知識や理論を知り、時には専門家に教えを請おう。情報を精査する際に気を付けたいのは、その知識を語る専門家が「歴史に学んでいるか」だ。自らの成功体験や自分が経験してきた狭い範囲の知識を伝えるのではなく、広く謙虚に学び、本当に優れた知識を伝える姿勢を持っているか確認してみてほしい。まずは知識身につけ、フォームを固める。感覚を磨くのはそれからでいい。

TEXT=吉田洋一郎

PHOTOGRAPH=松川 忍

COOPERATION=取手桜が丘ゴルフクラブ

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