FASHION

2026.05.13

葉加瀬太郎、大久保篤志にステージ衣装をお願いした理由「装いとは人の中身を表現するもの」

Vゾーンの流儀を起点に語られるのは、装いを超えた人としての在り方そのもの。伝説のスタイリスト・大久保篤志と日本を代表する音楽家・葉加瀬太郎が紐解く、現代のジェントルマンの本質とは──。【特集 ジェントルマンの流儀】

大久保篤志×葉加瀬太郎

葉加瀬「大久保さんとの出会いで衣装の“肉体性が”高まりました」

葉加瀬 僕が大久保さんにステージ衣装を初めてお願いしたのは、たしか2012年頃でした。振り返ればもう長いお付き合いになりますね。

大久保 そんなになりますか。最初の頃(葉加瀬)太郎さんに「なぜ僕に?」とお聞きしたことがあって。その時は、朝の情報番組でテリー伊藤さんのスタイリングをご覧になってとおっしゃっていましたよね。

葉加瀬 木梨憲武さんや藤井フミヤさんのスタイリングなどで、お名前はもちろん存じ上げていましたが、週に5回、毎日あれだけ個性的な装いを成立させていらした、その力量に惹かれました。それまではステージ衣装も自分で選んでいて、ツアーとなると多い時で4ヵ月に50〜60本。2ルックほどで着回すと、既製服ではとてもじゃないけれど対応しきれない。

洗えない服も多いですし、僕はとにかく汗っかきで、演奏スタイルも機動性が不可欠です。大久保さんは音楽に造詣が深いし、ステージ衣装も多く手がけていらっしゃる。軽くて、動きやすく、それでいて見た目はフォーマルで華やか。そんなリクエストでつくっていただいたら、もう前の服には戻れなくなっていました。

大久保 ステージ衣装というのは、まず客席から見て、一瞬で輝いて見えなくてはいけないものです。太郎さんのゲネプロを拝見して、その直後に衣装を見た時、まるで今しがた走ってきたかのような汗の量で「これはアスリートだ」と驚きました。そこで裏地には速乾性のあるナイロンメッシュを使い、表地もストレッチ性を高める。演奏の動きに対応しながら、見た目はあくまで華やかという衣装をつくるようになりました。

大久保篤志×葉加瀬太郎
「年に2回衣装をつくっていただいていて、毎回新鮮だし、飽きない。僕がそうですから観客の皆さんも同じように思ってくださるはず」(葉加瀬さん)。ジャケット¥650,100、パーカ¥385,000、Tシャツ¥94,600、ポケットチーフ¥48,400(すべてブルネロ クチネリ/ブルネロ クチネリ ジャパン TEL:03-5276-8300)

タイドアップは人に対する自らの姿勢の表れ

葉加瀬 それ以降、衣装の“肉体性”がぐっと高まりましたよね。大久保さんは機能性と華やかさの両立を毎年更新してくださるので、どんどん軽くなるし、弾きやすくなる。僕のステージは毎年テーマを決めてセットリストや舞台美術を構成するのですが、その突拍子もないアイデアを、面白がってスタイリングに反映してくださるのも嬉しくて。

大久保 「華麗なるギャツビー」とか「サハラ砂漠」とか、あと「北イタリアにある架空の村」というのもありましたね(笑)。正直大変ですけれど、「こうきたか!」と思いながら、毎回楽しませていただいています。

葉加瀬 大久保さんのさらにすごいのは、Vゾーンのつくり方です。僕の場合、ステージ衣装はタキシードや燕尾服が定番ですが、バイオリン奏者としては、ボウタイだとどうしても演奏中にフォルムが崩れてしまう。その悩みを相談したら「じゃあこうしましょう」と、ウィングカラーシャツにネクタイを合わせて、さらにベストでVゾーンを構築するスタイリングを提案してくださって。見た目はピシッと締まりながら、羽衣みたいに軽い。あれには感動しました。

大久保 太郎さんの演奏スタイルだと、どうしてもジャケットの前が開いてしまう。ベストを着ていただくと、激しく動いてもVゾーンは崩れない。さらに光を拾う生地を使えば、それだけで華やかさも増しますしね。

葉加瀬 そうした意味でも、ジャケットスタイルにおいては、Vゾーンの見え方がとても重要だと感じます。だからこそ、ネクタイを締めるかどうかも含めて、装いにはちゃんと意味を持たせたい。もう26年続くラジオ番組があるのですが、その収録には必ずスーツにタイドアップで臨みます。さらに自分が主催する音楽祭でも、リハーサルから僕だけはスーツを着るようにしています。どちらもホストとしてゲストを迎える立場だからこそ、相手に失礼がないようにしたいという思いからです。

大久保篤志×葉加瀬太郎
「ステージ衣装を手がけるのは嬉しいものなんです。自分なりに納得のいく衣装でステージに出ていただいて、全国の会場で大勢の観客の方々が『わあっ』と歓声をあげてくださる。僕は客席の端っこでその様子を見ているんですが、この一瞬はやっぱりたまらないですよ」(大久保さん)

装うことを楽しむ。それが一番大切なこと

大久保 その部分は、僕は最近ちょっと怠けているかもしれません(笑)。でもやっぱり、Vゾーンをどうつくるかを考えることは、何よりも好きですね。自身のブランド「ザ スタイリスト ジャパン」をやっていた時は、ワークウェアの生地でスーツを仕立てたりしていて、そこでもポイントはやはりタイドアップでした。ディッキーズのスーツにもネクタイを締めて、それで撮影現場に行ったりすると、空気が少し引き締まったりもして。

葉加瀬 それはあるでしょうね。Vゾーンは調整できる範囲が限られているからこそ、セオリーからほんの少しハズした遊びが、着こなし全体の印象を左右することもありますしね。とはいえ、それはやはり服のことをきちんと理解していないとできないことだと思いますけれど。

大久保 僕らからすると、そういう“ハズし”は、その人のセンスが垣間見ることができる瞬間でもあるし、何よりファッションを楽しんでいるなと感じられて、見ていて楽しいですよ。

葉加瀬 毎日、鏡の前に立って、自分のために装うという意識を持つことですね。そして、いわゆる“ジェントルマン”といわれる人は、そういう積み重ねのなかで、自分のスタイルを確立している人のことを指すのではないでしょうか。英国式のスーツを着ているかどうかではなく、たとえデニムのセットアップだとしても、自分らしく着こなせる“型”を持っている人。それこそがジェントルマンなのだと。

大久保 僕もいろんな服を着てきましたけれど、20代、30代でその“型”が完成するわけじゃないんですよね。年齢を重ねて、70歳の今になってようやく、少し落ち着いてきた感覚です。

葉加瀬 ジェントルマンの本質とはそういうことかもしれませんね。装いというものは、その人の中身を表現するものですし、自分が好きな服を着ている時に気分がいいことが大切です。そうなると、日常で人にどう接するかというところまで含めて整ってないと、ジェントルマンにはなれないような気がします。

大久保 おっしゃるとおりです。これは今度出す自伝にも書いたことですが、例えばロックTシャツにしても、流行りだからといって好きなバンドでもないものを着るのは、どこか中身が伴っていないようで、自分としてはしっくりこないんです。

葉加瀬 そうそう、聴いていないものを着ると、どうにもならない(笑)。

大久保 それでいうと今日の太郎さんの私服は、ベートーベンの肖像が描かれたスウェットシャツでしょう。これほど納得できるチョイスはないです(笑)。太郎さん、格好いいです。

葉加瀬太郎さんがプライベートでも懇意にしている、ブルネロ クチネリの表参道店にて、新作のスーツをスタイリング。大久保さんがフィッティングしている間にも、14年来の付き合いだというふたりは、ショルダーの位置や生地の違いなどといった服談義に花が咲く。

「何も言わなくても伝わることがたくさんあるから、一緒にやっていると楽しくてしょうがないですよね」(葉加瀬さん)

スーツ¥946,000、シャツ¥105,600、ネクタイ¥52,800、ポケットチーフ¥48,400(すべてブルネロ クチネリ/ブルネロ クチネリ ジャパン TEL:03-5276-8300)

葉加瀬太郎/Taro Hakase
1968年大阪府生まれ。バイオリニスト、作曲家、音楽プロデューサーとして活躍するほか、ラジオ番組のパーソナリティとしての顔も持つ。2026年5月30、31日は京都で「久原本家 茅乃舎presents 葉加瀬太郎音楽祭2026」が開催。詳細はこちら
デザイナーの西山徹さんが手がけたグレーのスーツのインに合わせたTシャツは、自伝的エッセイ発刊とあわせて限定発売される西浦徹さんデザインの色違いバージョン。首元のネックレスは本人曰く「全財産をぶら下げてきました」。

大久保篤志/Atsushi Okubo
1955年北海道生まれ。文化服装学院を経て、会社員に。その後、北村勝彦氏に師事し、1981年にスタイリストとして独立。以後、雑誌、広告、ショー、セレブリティのスタイリングなどを手がける。現在は、自身のブランド「ラストマン」を展開。

【特集 ジェントルマンの流儀】

この記事はGOETHE 2026年6月号「総力特集:ジェントルマンの流儀 Tied-Up or No-Tie?」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら

TEXT=畠山里子

PHOTOGRAPH=中森真

STYLING=大久保篤志

HAIR&MAKE-UP=藤川美紗(葉加瀬さん)

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